高血圧の合併症
高血圧の合併症
公開日: 2021年10月7日
最終更新日: 2022年12月28日
高血圧は、日本国内に約4300万人いると推定されており、日本人のおよそ3人に1人は高血圧を患っています。
高血圧は、自覚症状に乏しい病気であり、「サイレントキラー」と呼ばれていますが、自覚症状がないからと言って、長期間、高血圧を治療せずに放置すると、さまざまな合併症をひきおこすことが知られています。
今回は、高血圧で生じる合併症について説明します。
高血圧は、自覚症状に乏しい病気であり、一般的には、著しい血圧上昇をきたさない限りは、自覚症状は認めません。
→ 高血圧の症状の解説記事
→ 高血圧緊急症:血圧180/120㎜Hg以上の著しい高血圧 の解説記事
人の身体には、全身に酸素や栄養を供給するために血管が張り巡らされています。
高血圧では、この全身に酸素や栄養素を供給している動脈と呼ばれる血管の壁の圧力が高くなり、血管の壁が障害されます。
血管の壁が傷つくと、動脈が硬くなったり(動脈硬化)、動脈の壁の弱い部分が膨らむ(動脈瘤)ことがあります。
動脈硬化が進行すると、動脈内の血液を流れる内腔が狭くなり、十分な血液を臓器に送ることができなくなります。
血液は、全身の臓器に酸素や栄養素を供給しているため、血液が流れなくなると、臓器の酸素不足や栄養不足をきたします。
糖尿病や高脂血症がある人は、糖分やコレステロールにより、動脈がさらに傷みやすくなるため、より動脈硬化をおこしやすくなります。
高血圧は、全身の動脈にダメージを与えるため、高血圧の合併症は全身に生じます。
高血圧の合併症として代表的なものは下記の通りです。
高血圧は、心臓にさまざまな悪影響を及ぼします。
心臓は全身に血液を送り出すポンプのような働きをしています。
血圧が高い状態が続くと、心臓に負荷がかかり、心臓の筋肉が肥大します。
心臓の左心室と呼ばれる部屋から、全身に血液を送り出しているため、左心室の筋肉が発達し、左室肥大をきたします。
左室肥大の人は、心臓発作、心不全、心臓突然死のリスクが高まります。
血圧が高く、心臓に負担がかかり続けると、心臓の筋肉が疲弊し、心臓のポンプ作用が低下する場合があります。
心臓のポンプ作用が弱まると、体全身に十分な血液を送り出すことが難しくなります。
初期の段階には、階段を上り下りした時や、運動した時などの心臓への負担がかかる時に、息切れや倦怠感などを認めるようになります。
重度になると、安静時にも症状が出現し、横になって眠れないなどの自覚症状が出現します。
心不全は、不整脈や心臓死のリスクを高めます。
心臓は、冠動脈と呼ばれる血管によって、酸素と栄養素が供給されています。
この冠動脈が動脈硬化によって狭くなり、血液の流れが悪くなると、心臓の筋肉は十分な酸素や栄養素を得られなくなります。
心臓への血流の供給不足が生じると、締め付けられるような胸の痛みや圧迫感(胸部絞扼感)を生じる場合があり、狭心痛と呼ばれます。
狭心症は、冠動脈の動脈硬化などによって、心臓へ十分な血液が供給できず、胸痛などの自覚症状が出現した状態を指します。
さらに動脈硬化が進行したり、冠動脈の血管の壁にできたプラークと呼ばれるコレステロールなどでできた脂肪の塊が破れ、血の塊が血管内にできると、血流が途絶えてしまい心筋は壊死します。
心筋梗塞は、心臓に血液が流れなくなった結果、心筋が壊死した状態です。
狭心症と心筋梗塞の自覚症状の違いは、狭心症では、胸痛などの症状が数分から長くて15分程度続く一方で、心筋梗塞では、症状が30分以上持続する点です。
心筋梗塞は、不整脈、心不全、心臓死のリスクを高めます。
高血圧は、脳にさまざまな悪影響を及ぼします。
一過性脳虚血発作は、脳への血液の供給が短時間中断されることによって生じます。
高血圧は、脳内の動脈に動脈硬化を生じ、血液が流れにくくしたり、血栓ができることで、脳の血流を阻害します。
一過性脳虚血発作の症状は、顔面や手足のしびれや麻痺、話しにくい、意識消失などを認めます。
症状は、5-10分程度、持続することが多く、ほとんどは1時間以内に改善します。
一過性脳虚血発作を認めた方は、将来、脳梗塞を発症するリスクが高くなります。
高血圧は、脳出血・脳梗塞などの脳卒中のリスク因子です。
血圧が高いと、脳の血管が損傷しやすくなります。
その結果、動脈硬化を生じ、血管が狭くなったり、血管が破裂したり、出血しやすくなります。
また、高血圧は、血栓の形成を促進します。
脳に血流する動脈が詰まり、血流が途絶えると、脳梗塞をきたすこともあります。
中年期の高血圧が、後年の認知症、特に血管性認知症を発症するリスクを高める可能性が示唆されています。
血圧が高いと、動脈硬化をきたし、血管が細くなり、脳への血流が不足します。
また、高血圧は、太い血管だけでなく、脳内の非常に小さな血管にも悪影響を及ぼします。
高血圧によって、小さな血管が障害され、微小な出血が生じたり、微小な梗塞ができたりすることで、認知症の原因になる場合があります。
腎臓は、血液をろ過して、尿を作り、体外に水分や老廃物を排出する臓器です。
高血圧は、腎臓内の血管を障害します。
腎臓は、血液をろ過して、尿を作る臓器です。
腎臓には、血液をろ過するための小さな血管が集まった糸球体と呼ばれる部分があります。
高血圧によって、この糸球体に過剰な圧力がかかると、小さな血管が傷つきます。
(蛇口につけるろ過機に目一杯水を流し、過剰な圧力をかけると、壊れやすくなるようなものです。)
長期間にわたり、糸球体が障害されると、糸球体が潰れて、瘢痕化し、血液が流れなくなります。(腎硬化症)
腎臓一つに糸球体は約100万個ありますが、糸球体が多量に障害されると、やがて、血液がろ過できなくなります。
その結果、体外に水分や老廃物を排泄できなくなり、腎不全をきたし、透析が必要になる場合があります。
高血圧は、目の充血などは生じませんが、目の奥の血管を傷つけます。
目の奥には、光を感知する網膜があります。
網膜には、栄養するための血管があり、その血管が、高血圧にさらされると、徐々に破壊されます。
病状がかなり進行するまで自覚症状を認めないこともありますが、眼底出血や視力障害、失明の原因になることもあります。
→ 高血圧による目の症状の解説記事
目の奥の網膜のさらに奥には脈絡膜という膜があります。
脈絡膜にも栄養するための血管があり、高血圧は脈絡膜の血管を障害します。
視力のゆがみを生じたり、視力障害をきたすことがあります。
視神経は血管で栄養されていますが、視神経を栄養する血管が高血圧によって障害されると、視力障害をきたすことがあります。
高血圧は、四肢、手足の血管にも動脈硬化を生じ、悪影響を及ぼします。
手足には栄養するための血管があります。
高血圧によって、手足を栄養する血管(動脈)に動脈硬化が生じ、血管が狭窄すると、手足への血流が足りなくなります。
血流不足の影響として、始めは、手足のしびれや冷感を認めます。
その後、血流不足の影響は、酸素を多く必要とする運動時に出現し、運動時の筋肉の痛みなどの症状が出現します。
さらに血流が悪くなると、安静時にも痛みが出現するようになります。
最終的には、血流が極度に不足すると、潰瘍や壊死を起こします。
四肢の血管が狭窄している方は、他の部位の血管も狭窄している可能性が高く、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高いことが知られています。
高血圧は、体の中心を走る大動脈にもさまざまな病気をひきおこします。
大動脈瘤は、大動脈の壁に大きなこぶのような膨らみができた状態です。
血圧が高いと、大動脈の壁への圧力が高くなりますので、大動脈瘤はできやすくなります。
大動脈瘤の直径が50mm以上であれば破裂の危険性があり、こぶが大きくなっている場合には、危険性が増します。
ほとんどの高血圧の合併症は、糖尿病があると悪くなることが多いのですが、大動脈瘤は、逆に発症のリスクが下がります。
大動脈解離は、大動脈の血管の壁が裂けて、血液の通り道が、血管内に本来のものとは別にもうひとつできた状態です。
大動脈解離の症状は、突然、胸や背中に激痛が走り、血管壁が裂けるにつれて、痛みは移動することがあります。
大動脈が裂けることで、大動脈が破裂したり、多くの臓器の血流不全を引き起こし、重大な合併症を引きおこします。
高血圧は、大動脈解離のリスクとなりますが、糖尿病は逆に大動脈解離のリスクを下げることが知られています。
以上です。
アスクレピオス診療院では、糖尿病や高血圧の生活習慣病の専門家が治療に当たっています。
糖尿病や高血圧でお困りなら、当院にご相談ください。
糖尿病内科 アスクレピオス診療院(名古屋名東区)のホームはこちら
→ 「糖尿病内科 in 名古屋」のブログ記事一覧
関連記事
高血圧の原因とは
高血圧の食事療法
正しい血圧測定の方法の解説 - 家庭で血圧を測定する際の注意点とは
糖尿病の合併症と高血圧
文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生