塩は、世界中で使用されている調味料です。
塩は、食品の味付けに使われるのみならず、大量の塩の存在下では細菌は増殖できないため、塩漬けにすることで、昔から食品の保存に使用されてきました。
使い勝手の良い塩ですが、塩分を取りすぎると、健康にさまざまな悪影響を及ぼします。
今回は、高血圧と塩分の関係について解説します。
塩分を摂ると、血圧は上がりますか?
塩分の摂取量と血圧の上昇の間には、強い相関関係があり、塩分を増やせば増やすほど、血圧が上昇します。
18か国の成人102,216人を調査した結果によると、ナトリウムの尿への排泄量が、1g増加するごとに、収縮期血圧が2.11mmHg、拡張期血圧が0.78mmHg増加することが報告されています。
塩分の摂取量が減ると、ほとんどの人で数週間以内に血圧が下がり始め、高血圧の人では、より大きく血圧が下がります。
減塩の効果を検討した複数の論文をまとめて解析した研究(メタアナリシス)では、塩分摂取量が1日4.4g減少すると、血圧は、収縮期血圧が4.18mmHg、拡張期血圧が2.06mmHg減少することが報告されています。減塩による血圧の低下は、正常血圧の人と比べて、高血圧のある人でより顕著でした。
もともと、塩分をあまりとらない国では、先進国で見られるような年齢による血圧の上昇を認めません。
減塩には、どのような効果がありますか?
塩分の摂取量を減らすと、血圧が下がり、高血圧の合併症である脳や心臓の血管の病気が減少したり、死亡リスクが減少します。
塩を取りすぎると、血圧が上がるのはなぜですか?
塩(ナトリウム)を取りすぎると、血圧が上がるメカニズムの一因として、次の機序が考えられています。
塩分を取りすぎると血圧が上がる機序
- ナトリウムには水を血管内にためる働きがある。
- ナトリウムが過剰に溜まると、血液の量が増える。
- 心臓のポンプ機能が増し、血管への圧力が増す。
- 血圧が上がる。
体に過剰に蓄積したナトリウムは、血圧が上がることで、腎臓の血流が増えて、ナトリウムの腎臓から尿中への排泄が増えて、体外に排泄されます。
塩分を過剰に摂取することによる血圧の上昇幅には個人差があり、この現象は、塩分感受性と呼ばれています。
過剰なナトリウムは、腎臓から尿の中に排泄されるため、腎臓が悪い人は、塩分を取りすぎると、血圧がさらに上がりやすくなります。
食塩の摂取量の目安を教えてください。
WHOの推奨している食塩の摂取量は、1日5g未満です。
日本人の食事は、塩で味付けをするものが多く、日本人の9割以上の人が塩分を1日5g以上摂取しているため、1日5g未満を目標にするのは、現実的ではありません。
厚生労働省の策定した日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食塩摂取量の目標値は、成人の男性では、1日7.5g~8.0g未満、成人の女性では、1日6.5g~7.0g未満としています。
ただし、欧米の臨床試験の結果からは、少なくとも食塩摂取量を6g/日前半まで減らさなければ、血圧は下がらないことが報告されています。
そのため、高血圧のある人の食塩摂取量の目標は、健常者よりも厳しく設定されており、1日6g未満の摂取量が推奨されます。
塩分の摂取量が少なすぎるとどうなりますか?
健康を維持するための、食塩(ナトリウム)の最低の必要量はよくわかっていません。
WHOのガイドラインでは、塩分の必要量は、ナトリウム換算で1日0.2g~0.5gであると推定されています。
日本人は塩分摂取量が多く、塩分の摂取不足は稀ですが、高齢者、利尿薬を飲んでいる人、多量の下痢や発汗を認める人の場合は、体のナトリウムが失われ、低ナトリウム血症をきたす場合があります。
日本人の塩分の消費量はどのくらいですか?
平成28年度国民健康栄養調査によると、20歳以上の日本人が1日に摂取している食塩の量は、男性10.8g、女性9.2gです。
下記に2008年~2018年の食塩摂取量の推移のグラフを示します。
厚生労働省 e-ヘルスネット 栄養・食生活と高血圧より引用
日本人の塩分摂取量は、減塩の啓蒙活動の効果もあり、年々減少傾向にあります。
世界の各国の食塩摂取量を教えてください。
日本人の男女合わせた食塩摂取量の平均は、1日9.9gです。
日本より食塩摂取量が少ない国としては、オーストラリア(1日6.2g)、アイルランド(1日7.4g)、フランス(1日7.5g)、イギリス(1日8.0g)などがあります。
日本と同程度の食塩を摂取する国には、米国(1日9.0g)、韓国(1日9.9g)、スペイン(1日9.8g)、ブラジル(1日10.4g)などがあります。
日本より食塩摂取量が多い国には、トルコ(1日18.0g)があります。
1日当たりの食塩摂取量が、WHOの食塩摂取量の目標である1日5g未満、高血圧の食塩摂取量の目標である6g/日未満をクリアしている先進国はほとんどありません。
塩分の摂取量を減らす方法を教えてください。
果物、野菜、肉、乳製品などの自然食品には、塩分があまり含まれていません。
塩分の多い加工食品を避けて、香辛料などの塩分の含まれていない調味料を使用しましょう。
外食時には、食事中の塩分量の記載があることもあるため、チェックしてみましょう。
減塩のポイント
- 減塩食品(減塩醤油など)を活用する。
- 塩分の多い加工食品を避ける。
- 味付けを塩分に頼らず、酢や柑橘類、香辛料などの塩分の含まれていない調味料を活用する。
- 食事に味にメリハリをつける。
- 麺類の汁は残す。
塩分が多く含まれる食品を教えてください。
日本人の食生活の中で、食塩の多い食品には、カップめん、インスタントラーメンなどの加工食品や、梅干し、漬物、明太子、干物などの塩蔵品が挙げられます。
塩には、細菌の増殖を抑える効果があるので、冷蔵庫がない時代から、食品の保存によく用いられており、現代でも、漬物、干物などは食べられています。
カップめんやインスタントラーメンを購入する際には、塩分(ナトリウム)がどれだけ含まれているかを確認し、ラーメンのスープなどは飲まないようにしましょう。
食塩とナトリウムの違いを教えてください。
食塩とは、一般的に販売されている塩のことで、99%以上が塩化ナトリウムです。
食塩には、ごくわずかに、カルシウムやマグネシウムなどの他のミネラルが含まれています。
塩化ナトリウムは、ナトリウムと塩素が結合した化合物です。
化学式は、NaClであり、ナトリウムの重量を2.5倍すると、食塩に換算した重量になります。
ナトリウム 1gは、食塩 2.5gに相当します。
食品中の塩分の成分量は、ナトリウム量で記載される場合があるため、食塩量に換算してみましょう。
塩分とカリウムの関係について教えてください。
塩分(ナトリウム)とカリウムは、両者とも生体の維持に重要な働きをするミネラルです。
血圧に対しては、ナトリウムとカリウムは、互いに反対の効果があります。
食事中のナトリウムが多すぎると血圧が上昇する一方で、食事中のカリウムが少なすぎても血圧が上昇します。
カリウムを多く摂取するほど、腎臓から尿中へ排泄されるナトリウムは多くなります。
また、カリウムには、血管壁の緊張を和らげる作用があり、カリウムは、血圧を下げるのに役立ちます。
食事中のナトリウムとカリウムの比率は、健康を維持する上で重要です。
食事中のナトリウムとカリウムの比率が、最も高い人は、心臓の血管の病気で死亡するリスクが最も低い人の約2倍であり、あらゆる原因による死亡のリスクが約50%高いことが報告されています。
塩分と高血圧についての解説は、以上です。
アスクレピオス診療院では、糖尿病や高血圧の生活習慣病の専門家が治療に当たっています。
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