1型糖尿病の疫学(日本と世界の有病率・発症率・リスク因子(遺伝等))の解説
1型糖尿病の疫学(日本と世界の有病率・発症率・リスク因子(遺伝等))の解説
公開日: 2019年11月18日
最終更新日: 2022年12月29日
1型糖尿病は、自己免疫やその他の原因により膵臓のβ細胞が破壊される病気です。
全世界の糖尿病の5%~10%を占めています。
1型糖尿病は、子どもと若年成人では、最も一般的な糖尿病であり、発症のピークは思春期です。
1型糖尿病の発症率は、世界各国により異なっており、日本では、小児の発症率は、10万人あたり1.5人~2.5人とされています。
日本全体では、1型糖尿病の全年齢の患者数は約 10~14 万人、有病率は約 0.09~0.11% になります。
1型糖尿病のリスク因子には、年齢、性別、人種、遺伝などが考えられています。
目次
1型糖尿病は、インスリンが分泌される膵臓のβ細胞が壊されることによって生じる糖尿病です。(1)
ほとんどの1型糖尿病は、本来は、体外からの細菌などの異物と戦うための免疫が、自分自身の膵臓のβ細胞を攻撃して破壊してしまう事でおこります。(1a型)
1型糖尿病の少数の人では、原因不明の機序により膵臓のβ細胞が障害され、インスリン分泌が低下します。(1b型)
1型糖尿病は、小児や若年成人に発症することが多いのですが、中高齢の成人でも発症することがあります。
小児期から若年成人に発症した場合の1型糖尿病は、インスリン分泌が低下するスピードが比較的急速です。
一方、中高齢者に発症する1型糖尿病は、若い人ほど免疫力が強くないためか、インスリン分泌の低下する進行スピードが比較的緩徐であり、日本では、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM:slow progressive insulin dependent diabetes mellitus)と言われています。
インスリン分泌が一定以上に低下すると、インスリン療法が生命維持に必要になります。
1型糖尿病の人は日本と世界にはどのくらいみえるのでしょうか?
特定の疾患の人数をみる場合には、1年間に新しく発症した人数(=発症率)と、現在病気を患っている人数(有病率)を評価します。
1型糖尿病は、全世界における糖尿病患者の5~10%を占めています。
1型糖尿病は、子どもと青年において最も一般的な糖尿病です。
世界保健機構(WHO)により、1型糖尿病の小児の発症率の調査を目的として、1990年から1994年に行われたDIAMONDプロジェクトでは、世界50か国の14歳以下の小児における1型糖尿病の発症率は、7510万人のうち、19164例であることが報告されました。
(10万人あたり26人、もしくは、約3900人の子供あたり1人の割合です。)
1型糖尿病の発症率は、世界の地域により、大きく異なっています。
中国の年間 10万人あたり0.1人から、フィンランドの年間 10万人あたり36.5人など、地域により350倍以上の発症率の差があります。
下図は、2011年の世界各国の1型糖尿病の10万人あたりの発症人数です。
日本では、1973年~2001年までの色々な全国調査を総合すると、小児の1型糖尿病の発症率は、10万人あたり、年間1.5~2.5人とされています。
また、有病率は、10万人あたり、約10人~約15人程度です。(3)
近年の1型糖尿病の患者数(全年齢)は約 10~14 万人、有病率は約 0.09~0.11% (人口 10 万人あたり約 90~110 人)とされています。 (4)(5)
1型糖尿病のリスク因子には次のものがあります。
1型糖尿病は、小児から成人まで発症します。
成人の緩徐に進行していく1型糖尿病などでは、1型糖尿病と診断できない場合があります。
1型糖尿病の発症のピークは、10歳~14歳の思春期です。
日本では、1型糖尿病の発症率は、10 万人あたり年間 2.25人(男児 1.91、女児 2.52)であり、女性の方か多くなっています。(6)
一般的には、自己免疫疾患は、女性の方が発症しやすいことが報告されています。
しかし、ヨーロッパの国の1型糖尿病の人では、女性より男性の方が多いことが報告されており、性別の影響は定まっていません。
国によって、1型糖尿病の発症率はかなり違います。
しかし、地域差だけでは、気候などの環境の違いよる可能性が否定できません。
米国の20歳未満の若年者を対象に糖尿病の有病率や発症率を調査をした研究では、非ヒスパニック系白人、ヒスパニック系、アジア/太平洋諸島系、アフリカ系アメリカ人の中では、非ヒスパニック系白人での1型糖尿病の有病率が高かったと報告されています。(7)(8)
2001年・2009年の1型糖尿病の性別、年齢、人種/民族グループ別の糖尿病の有病率(1,000人あたり)
AA:アフリカ系アメリカ人。AI:アメリカインディアン。API:アジア太平洋諸島人。HISP:ヒスパニック。NHW:非ヒスパニック系白人。
Hamman RF et al. The SEARCH for Diabetes in Youth study: rationale, findings, and future directions. Diabetes Care. 2014より引用
参考:糖尿病と糖尿病性合併症の人種差の論文(9)
1型糖尿病の大部分は家族歴のない人に発生します。
しかし、1型糖尿病は、遺伝的要因に強く影響されます。
遺伝子としては、染色体6番上のヒト白血球抗原(HLA)複合体、特にHLAクラスⅡの影響が大きいと報告されています。(10)
→ Wikipedia 主要組織適合遺伝子複合体 の記事
遺伝の影響をみるには、一卵性双生児と二卵性双生児を用いた研究が最適です。
一卵性双生児は、遺伝背景が全く同じ、二卵性双生児は、遺伝背景が全く同じではないですが、ある程度似ています。
フィンランドの双生児の研究では、 1型糖尿病のペアワイズ一致率は、一卵性双生児では、27.3%、二卵性双生児では、3.8%でした。(11)
(ペアワイズ一致率は、全組のうちで、双生児のペアが、1型糖尿病を発症した割合です。)
日本人では、双生児におけるインスリン依存性糖尿病の一致率は、一卵性双生児では 11例中5例が発症し、45%、二卵性双生児では、10例中0例が発症し、0%と報告されています。(12)
二卵性双生児は0%になっていますが、症例数が少ないことを考慮すると、二卵性双生児も遺伝の影響は否定できないと考えます。
→ 米国の糖尿病学会へのリンクです。より詳しく遺伝リスクを知りたい方はこちら ただし、人種や民族差があるため、参考所見です。
1型糖尿病には、出生月と診断月の両方の季節性のパターンが報告されています。(13)
日本の1型糖尿病の新規発症では、季節変動をみると、冬から春にかけて多く、夏に少なくなっています。(14)
背景の原因には、ウイルス感染や日光照射によるビタミンDレベルの季節的変動などが推定されています。
(ビタミンDは免疫応答を調整しており、ビタミンD不足は免疫能に悪影響を及ぼします。
例えば、適度な日光浴をすると、アトピー性皮膚炎が良くなる現象などが報告されています。)
移住研究や、双子の研究などによって、1型糖尿病の発症には、環境要因が関与することが想定されていますが、はっきりとした原因は分かっていません。
以上が、1型糖尿病の疫学になります。
皆さんの参考になれば幸いです。
ご興味があれば、他の記事もどうぞ。
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