GLP-1のダイエット(体重減少)効果とは リバウンドを含めた解説
GLP-1のダイエット(体重減少)効果とは リバウンドを含めた解説
公開日: 2019年11月26日
最終更新日: 2021年9月22日
GLP-1受容体作動薬は、糖尿病の治療薬(血糖降下薬)の一つです。
GLP-1には、食欲を抑制し、食事摂取量を減らし、体重を減らす効果があると言われています。
欧米人の肥満者や肥満2型糖尿病の人に、GLP-1製剤を20週~56週間投与すると、3%~7%程度の体重減少効果が認められます。
しかし、日本人の2型糖尿病の人の場合は、セマグルチド(オゼンピック)以外のGLP-1製剤を常用量で投与しても、ほとんど体重減少効果は期待できません。
(セマグルチドには、日本人(平均体重70kg)に30週間投与した際に、平均2kg-4kg程度の体重減少を認めた報告があります。)
また、GLP-1製剤を投与して、体重が一旦減少しても、投与を中止すると、体重はリバウンドする事が報告されています。
日本人は、欧米人と異なり、GLP-1製剤による体重減少効果は乏しく、現時点で、日本人に投与した場合に、明らかな体重減少効果が期待できるGLP-1製剤は、セマグルチドだけです。
(ただし、セマグルチドも2020年に発売したばかりの薬のため、今後のさらなる調査が必要です。)
目次
GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)は、小腸の末端(遠位部)から、糖分や脂質などの栄養素に反応して、分泌されるホルモンです。
GLP-1が分泌されるときは、小腸の終わりの方まで、栄養素が行った時、つまり、食後でしばらく時間が経ち、食物の消化吸収が進んできた時です。
そのため、GLP-1の代表的な働きには、次のようなものがあります。
GLP-1の働きは、GLP-1が、GLP-1受容体に結合し、刺激することで発現します。
GLP-1製剤(=GLP-1受容体作動薬)は、GLP-1受容体を刺激することで、効果を発揮します。
GLP-1受容体作動薬には、ヒトのGLP-1を参考にして作ったもの、人間以外の生物(例:トカゲの唾液)などを参考にして作ったものなど、いろいろな種類があります。
GLP-1受容体作動薬の効果の持続時間は、半日から1週間までと様々です。
日本で、2020年8月の時点で、使用されている製剤は下記のものになります。
上記の中でいくつか抜粋して説明すると、
エキセナチド(バイエッタ、ビデュリオン)は、トカゲの唾液由来のGLP-1受容体作動薬です。
それぞれの用量・薬価は、次の通りになります。
リラグルチド(ビクトーザ)、デュラグルチド(トルリシティ)、セマグルチド(オゼンピック)は、ヒトのGLP-1由来のGLP-1受容体作動薬になります。
GLP-1製剤は、標準用量 1カ月分だと 10000円 ~ 15000円 になります。
保険の3割負担だと、1カ月 3000円 ~ 5000円 です。
GLP-1製剤(GLP-1受容体作動薬)を使用すると、どのくらい体重が減るのでしょうか?
欧米人と日本人のデータをそれぞれ見ていきたいと思います。
下の図は、GLP-1受容体作動薬(リラグルチドとエクセナチド)を肥満、あるいは、2型糖尿病を対象に、少なくとも20週間、使用した際の体重変化の値です。(1)
調査対象になった2型糖尿病の人は、平均体重 82kg 〜 111kg、BMI 29〜41とかなり肥満です。
欧米人の2型糖尿病は、日本人の2型糖尿病とは違い、肥満の人が多いです。
リラグルチドは、1日1.2mg~1.8mg(肥満者を対象にした一つの試験では、3.0mgまで)を投与し、日本の常用量の約2倍です。
エクセナチドは、少なくとも、1日10㎍、もしくは、1週間に2mg以上を投与しています。
セマグルチドは、日本では、2020年6月に発売された新しいGLP-1状態作動薬です。
セマグルチドは、リラグルチドやエクセナチドなどの他のGLP-1製剤よりも体重減少効果が強いことが報告されています。
セマグルチドは、0.5mg、1.0mgの投与量が用いられますが、どちらの用量でも、投与した約65%の人に、約5%以上の体重減少を認めました。
臨床試験で認められた体重減少効果をざっくり説明すると、平均89kg~96kgの人に、セマグルチド0.5mgを投与した場合には、平均3.5kg~4.6kg、セマグルチド1.0mgを投与した場合には、平均4.5kg~6.5kgの体重減少を認めました(投与期間は30週間~56週間)。
欧米人では、GLP-1受容体作動薬を20週以上投与した際には、約3%~7%の体重減少効果を認めました。
では、日本人に、GLP-1受容体作動薬を投与した場合にも、欧米人と同様の体重減少効果を認めるのでしょうか?
結論から言うと、日本人では、GLP-1製剤の体重減少効果は、薬の種類によって、大きく異なります。
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具体的には、常用量のリラグルチド・デュラグルチド・エクセナチドを投与しても、体重減少作用は認めません。
高用量のエクセナチド、セマグルチドを投与した際には、体重減少効果が報告されています。
エクセナチドを日本人2型糖尿病患者さんに使用した場合には体重は減るのでしょうか?
下図は、エクセナチド(バイエッタ)の医薬品インタービューフォームから抜粋した図です。
投与24週投与時の体重は、プラセボ群で−0.47 kg、 バイエッタ5μg 2回群で−0.39kg、10μg 2回投与群で−1.54kgです。
プラセボ群と比べて、バイエッタ5μg2回投与では体重は減りません。
バイエッタ10μg 2回投与した群では、体重が1kg程度減ります。
→ Wikipedia プラセボ(偽薬)の説明
また、他の研究でも、バイエッタ5㎍2回投与群では体重減少を認めず、10μg2回投与群では、体重減少を認めたと報告されています。(3)
別の研究では、バイエッタ10μg2回投与による有意な体重減少効果は認めませんでした。(4)
Kadowaki T et al. Endocr J. 2009より引用
上図がその研究の体重推移のグラフです。
バイエッタ2.5㎍2回投与群、5μg 2回投与群では、プラセボ群より体重が増えてしまいました。
バイエッタ10㎍ 2回投与群では、一見、差があるようにみられますが、統計上の有意差はありません。
次に、1日2回タイプのバイエッタと、1週間1回タイプのビデュリオンの体重減少効果を比べてみます。
バイエッタ 1日2回 10㎍とビデュリオン 1週2mgの体重減少効果を比較したデータでは、ビデュリオンの体重減少は、バイエッタ 1日2回 10㎍よりも劣っていました。
ビデュリオンの医薬品インタビューフォームより引用
上のデータの裏付けとしては、バイエッタ10㎍2回投与からビデュリオンに切り替えると体重が増える事が報告されています。(5)
また、他の研究では、ビデュリオンの体重減少効果は認めなかったという報告もあります。(6)
以上をまとめると、バイエッタは、1日5㎍ 2回投与では体重減少効果はありません。
バイエッタを1日10㎍ 2回投与の最高用量で継続使用すれば、半年後には、1kg~2kg(約2%)程度の体重を減らせる可能性がある。
というところですね。
ヒトGLP-1由来のリラグルチド・デュラグルチドでは、日本人を対象にした多くの研究で、体重減少効果は認めていません。
デュラグルチドの薬剤承認時の2型糖尿病の人(体重 約71kg BMI 25.5)を対象にした3相試験では、デュラグルチド 0.75mg/週・リラグルチド 0.9mg/日を投与しても、ともに体重減少作用は認めません。
セマグルチドは、2020年6月に発売された1週間に1回投与するタイプのGLP-1受容体作動薬です。
海外では、体重減少作用が最も強いGLP-1製剤として知られています。
発売されたばかりなので、日本人を対象とした研究報告は少ないですが、国内の第3相試験の結果を参照すると、
セマグルチド0.5mg、セマグルチド1.0mg、シタグリプチン100mgを、30週間投与した試験では、セマグルチド0.5mgでは、平均69.3kgから2.2kg、セマグルチド1.0mgでは、平均69.3kgから3.9kgの体重減少を認めました。(シタグリプチン100mgでは体重は増減しませんでした。)
GLP-1製剤を中止すると、一度、減少した体重はどうなるのでしょうか?
答えは、GLP-1製剤を投与する前の体重に徐々に戻る傾向があります。
下の図は、エクセナチドとグラルギン(長時間作用型インスリン)を52週目まで投与したのちに、一旦中止し、64週目から再開したときの体重推移を示したグラフです。
Mathijs C. Bunck et al.Diabetes Care 2011より引用
上の黒丸がグラルギン(インスリン)で、下の白丸が、エクセナチドです。
52週から両薬剤とも中止されていますが、薬剤の中止後に、体重は元の水準に戻る傾向があります。
64週からエクセナチドを再開すると、また体重は減少していきます。
以上が、GLP-1製剤の体重減少効果のまとめになります。
セマグルチドを除くGLP-1製剤の体重減少効果は、欧米の肥満者や肥満糖尿病の人と比較して、日本人の小太りの2型糖尿病の人では、体重減少の効果は乏しいか、認められません。
セマグルチドは、一部の臨床研究で体重減少効果が指摘されているものの、今後のさらなる調査が必要です。
また、GLP-1製剤の投与中は、食欲抑制効果により、体重減少作用を認めますが、使用をやめるとリバウンドします。
興味があれば、他の記事も読んで頂けると幸いです。
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