甲状腺の解説 ー 甲状腺の説明と甲状腺の病気一覧
甲状腺の解説 ー 甲状腺の説明と甲状腺の病気一覧
公開日: 2019年9月28日
最終更新日: 2022年12月31日
「概要」
甲状腺は、頚部の喉仏の下にある蝶々が羽を広げた形をしている臓器です。
甲状腺は、甲状腺ホルモンと呼ばれる新陳代謝を調節するホルモンを分泌しています。
甲状腺ホルモンが多すぎると、甲状腺機能亢進症をきたします。
甲状腺機能亢進症では、動悸、頻脈、手足の震え、下痢、体重減少、月経不順などを認めます。
→ 甲状腺機能亢進症の解説
甲状腺ホルモンが不足すると、甲状腺機能低下症をきたします。
甲状腺機能低下症では、寒がり、むくみ、体重増加、うつ傾向、便秘、月経不順などを認めます。
→ 甲状腺機能低下症の解説
甲状腺の病気は、大きく分けて、次の4つに分類されます。
甲状腺ホルモンが増える病気には、バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがあります。
→ バセドウ病の解説
甲状腺ホルモンが減る病気には、慢性甲状腺炎(橋本病)などがあります。
→ 慢性甲状腺炎(橋本病)とは
甲状腺のできものは、人間ドックや自分で触診したときに発見されることが多いのですが、多くは良性腫瘍です。
甲状腺の悪性腫瘍は、乳頭癌が9割以上を占めています。
乳頭癌は、ゆっくりと増殖する温和な腫瘍です。
高齢者では、乳頭癌は手術切除を行わず、経過観察とすることもあります。
甲状腺の感染症には、他の臓器と同じく、細菌感染(病名:化膿性甲状腺炎)や、ウイルス感染(病名:亜急性甲状腺炎)が生じます。
当院は、甲状腺の病気を診療しております。
ご不安な事があれば、お気軽にご相談下さい
目次
甲状腺は、首の前方になる喉仏のすぐ下の首の付け根にある臓器です。
甲状腺(thyroid)の名前は、ギリシア語のthyeos(盾)とeidos(形)に由来します。
甲状腺は、蝶が羽を広げたような形(H型)をしており、左葉と右葉と中央の峡部からなります。
甲状腺は、気管の前方にあり、気管をとりまくように位置しています。
甲状腺の大きさは、上下方向に約4cm、厚さ2cmで、重さは約20g程度です。
正常の甲状腺は、皮膚のすぐ下にある柔らかい臓器のため、触る事ができます。
しかし、経験を積まなければ、触って同定するのは難しいです。
甲状腺が大きくなる病気(例:バセドウ病、慢性甲状腺炎)や甲状腺にできものができた時には、鏡でみた時や、自分で触った時に、甲状腺の形が分かる場合があります。
人の体は、生体内の環境を一定に保つためにさまざまなホルモンを生産しています。
甲状腺は、たくさんあるホルモンの中で、熱産生や代謝を調節する甲状腺ホルモンを作っています。
甲状腺ホルモンは、食べ物に含まれるヨウ素を材料にして作られています。
甲状腺ホルモンには、チロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)という2種類のホルモンがあります。
チロキシン(T4)に比べて、トリヨードサイロニン(T3)は強い活性を持ちます。
甲状腺では、主にチロキシン(T4)が産生されます。
そして、血流を介して体の各組織に運ばれた後に、チロキシン(T4)の一部が、トリヨードサイロニン(T3)に変換されます。
つまり、甲状腺では、まず弱いホルモンのチロキシン(T4)を作り、各組織の状況に応じて、強いホルモン(トリヨードサイロニン(T3)に作り変えて使っています。
甲状腺でのホルモンの産生は、脳を含むフィードバック機構によって調節されています。
甲状腺ホルモンのフィードバック機構は次のように調節されています。
① 脳が、血液中の甲状腺ホルモンの過不足を判断します。
② 脳が、甲状腺ホルモンの過不足に応じて、甲状腺のホルモン産生を促すホルモンの分泌を増減します。
③ 甲状腺ホルモンの産生を促すホルモンが、甲状腺に血流を通じて届き、甲状腺ホルモンの産生量が増減します。
もう少し具体的に説明すると、血液中の甲状腺ホルモンが足りないときは、
① 脳の視床下部が甲状腺指摘ホルモン放出ホルモン(TRH)を分泌します。
② TRHの働きにより、脳の下垂体からTSH(甲状腺刺激ホルモン)の分泌が増加します。
③ TSHの働きにより、甲状腺は刺激されて、チロキシン(T4)の産生が増加します。
という事が起こります。
血液中の甲状腺ホルモンが多いときには、逆のことが起こります。
(*甲状腺ホルモンの調節は、甲状腺だけでなく、脳(視床下部・下垂体)も関係しており、甲状腺ホルモンの異常は、脳の異常によっても起こります。)
甲状腺の機能をみるときには、血液検査で、FT3(遊離トリヨードサイロニン)、FT4(遊離チロキシン)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定します。
これを測定する事で、体内の甲状腺ホルモンの過不足などの状態が分かります。
次に、それぞれの検査データについて、解説します。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は、甲状腺から甲状腺ホルモンの分泌を促すホルモンです。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は、血液中の甲状腺のホルモンが足りない時には分泌が増え、血液中の甲状腺のホルモンが多すぎる時には分泌が抑制されます。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)が正常範囲から高くなっているか、低くなっているのかを見る事で、現在の甲状腺ホルモンの産生・分泌の状況を知る事ができます。
FT3、FT4についての説明です。
先ほど、甲状腺で作られているホルモンは、T3(チロキシン)やT4(トリヨードサイロニン)と説明しました。
一方、血液検査では、FT3(遊離チロキシン)、FT4 (遊離トリヨードサイロニン)を見ています。
これはなぜかと言うと、T3、T4のほとんどが血液中のタンパク質と結合しているため、T3、T4を測定しても、甲状腺ホルモンの正確な活性を知る事ができないからです。
そのため、血液中で遊離している(=タンパクと離れている)T3,T4を甲状腺ホルモンの評価に用います。
評価については、FT3、FT4は、正常値と比較した際の過不足をみています。
FT3、FT4は、同じように変化することが多いのですが、飢餓や重病などで体がエネルギーを節約したい時には、各組織でのFT4 → FT3の変換が抑えられて、FT4正常、FT3低値になる場合があります。
次に甲状腺の病気について説明します。
甲状腺の異常は、大きく分けると
1 甲状腺ホルモンの異常
甲状腺ホルモンが多くなる病気
甲状腺ホルモンが足りなくなる病気
2 甲状腺にできものができたとき
甲状腺全体が大きい
甲状腺の良性腫瘍
甲状腺の悪性腫瘍
3 甲状腺の感染症
細菌感染
ウイルス感染
のパターンに分かれれます。
甲状腺ホルモン分泌の異常は、女性の5%と男性の0.5%に認められます。
バセドウ病もそうですが、甲状腺の病気は女性によく認められます。
甲状腺ホルモンが多くなる病気は、甲状腺機能亢進症と呼ばれます。
甲状腺ホルモンが多くなりすぎると、軽度の場合には自覚症状に乏しい場合もありますが、下記のような自覚症状が出現します。
易疲労
動悸
振戦
食欲亢進
体重減少
頻脈
下痢
発汗過多
月経異常
興奮したときの症状に似ていますね。
甲状腺ホルモンが多くなる時には、
1 甲状腺ホルモンの産生が増える場合
2 甲状腺が壊されて、甲状腺ホルモンが流出する場合
3 その他
のパターンがあります。
甲状腺ホルモンの産生が増える場合の一般的な原因としては、
バセドウ病
中毒性結節性甲状腺腫
中毒性腺腫
です。
外国では、バセドウ病 80%未満 中毒性結節性甲状腺腫 15%未満とされていますが、
日本では、中毒性結節性甲状腺腫の頻度はもっと少ない気がします。
甲状腺が壊されて、ホルモンが増える場合の原因としては、下記があります。
亜急性甲状腺腫
無痛性甲状腺腫
その他の原因(放射線照射、腺腫の梗塞など)
その他の原因としては、甲状腺ホルモンの過剰投与、妊娠甲状腺中毒症などがあります。
→ 甲状腺機能亢進症 の解説
→ 無痛性甲状腺炎 の解説
甲状腺ホルモンが足りない病気は、甲状腺機能低下症と呼ばれます。
甲状腺が十分な量の甲状腺ホルモンを産生しないことが原因です。
甲状腺ホルモンが産生されなくなるときは、
甲状腺に原因がある場合がほとんどですが、
まれに、脳(視床下部・下垂体)に原因がある場合があります。
甲状腺ホルモンは、代謝を司るホルモンなので、不足すると色々な症状がでてきます。
疲労
精神症状:集中力の低下、認知症、うつ
乾燥肌
便秘
脈が遅い
寒がり
むくみ
体重増加
筋肉痛・関節痛
女性の月経異常
以上が良く認められる症状です。
要するに、新陳代謝が悪いと出てきそうな症状です。
認知症のある高齢者では、甲状腺機能低下症が原因になっていることがあるため、注意します。
甲状腺機能低下症の一般的原因には、
橋本甲状腺炎
(甲状腺に自己免疫による慢性炎症をきたす病気)
急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎
(いったん甲状腺が感染などで壊されると、再度、甲状腺ホルモンを分泌できるまでに、時間がかかります。)
が良く認められ、他には、
先天性甲状腺機能低下症
医原性甲状腺機能低下症(放射線ヨウ素治療後)
ヨウ素欠乏症
薬剤性甲状腺機能低下症(アミオダロン・リチウム 他)
の場合があります。
甲状腺の診断には、現病歴の聴取が必要ですね。
→ 甲状腺機能低下症の解説
甲状腺にはさまざまなできものができます。
甲状腺が全体的に腫れて大きい場合。
甲状腺腫は、原因に関係なく、甲状腺が大きくなった状態を指します。
甲状腺腫は、それ自体が病気ではありません。
甲状腺が大きくなる病気としては、バセドウ病や、慢性甲状腺炎などが挙げられます。
背景にある病気を探す必要があります。
甲状腺の結節には良性のものと、悪性のものがありますが、
どのくらいの確率で発見されるのでしょうか?
甲状腺の結節が、触診で発見される確率は、1~2%です。
超音波エコーによる発見率は、7%~32%(男性 4%~19% 女性 9%~32%)の人に発見されると報告されています。
さらに、その中で甲状腺がんの発見率になると、
超音波エコーでは、男性0.26%、女性 0.66%と言われています。
単純計算すると、人間ドックなどの超音波エコーで結節を発見された方のうち、
男性 64人に1人、女性 43人に1人に甲状腺がんが発見されることになります。
以外に少ないですね。
甲状腺の良性腫瘍には、単純性甲状腺腫、腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫、甲状腺嚢胞などさまざまなものがあります。
甲状腺の悪性腫瘍には、様々なものがあり、乳頭癌(90%~95%)、濾胞癌(5~10%)、高悪性度の低分化癌、未分化癌(1~2%)、髄葉癌(1~2%)と報告されています。
甲状腺腫瘍の診断は、腫瘍マーカーの測定と、甲状腺エコー、甲状腺の穿刺細胞診にて行います。
甲状腺の悪性腫瘍の治療は、甲状腺手術による腫瘍切除になります。
日本人の甲状腺の悪性腫瘍の9割以上を占める乳頭癌は、非常に増殖する速度がゆっくりな温厚な腫瘍です。
そのため、高齢者では、乳頭癌は手術で切除せずに経過観察することもあります。
甲状腺にも他の臓器と同じで感染症を生じる場合があります。
甲状腺に、細菌が感染した場合は、化膿性甲状腺炎、ウイルスが感染した場合は、亜急性甲状腺炎を生じる場合があります。
以上が甲状腺についての総論です。健康にご不安なことがある方は、お気軽にご相談下さい。
参考文献:
The thyroid gland Endocrinology: An Integrated Approach. NCBI Bookshelf
甲状腺結節取り扱い診療ガイドライン 2013
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