甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症とは
公開日: 2020年7月2日
最終更新日: 2022年12月29日
甲状腺機能低下症とは、甲状腺が体を正常な状態に保つのに必要な十分な甲状腺ホルモンを産生できない状態です。
甲状腺ホルモンの不足が軽度であれば、ほとんど自覚症状は認めません。
しかし、病状が進行するにつれて、倦怠感、寒がり、体重増加、心拍数の低下、うつ症状、認知機能低下などの症状が出現します。
甲状腺機能低下症の原因には、慢性甲状腺炎、甲状腺炎、放射線治療後、甲状腺切除術後などが挙げられます。
甲状腺機能低下症の診断は、血液中の甲状腺ホルモン(FT3・FT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の濃度等を調べます。
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン(レボチロキシン(商品名:チラーヂンS))を補充すれば、完全にコントロールできる病気です。
甲状腺機能低下症の自覚症状を認めたら、お早めにご相談下さい。
目次
甲状腺は、蝶形の内分泌腺であり、通常は頚部の喉仏の下に位置しています。
甲状腺は、新陳代謝を司るホルモンである甲状腺ホルモンを産生しています。
甲状腺ホルモンは、血液中に分泌されてから、体全身の組織へと運ばれます。
甲状腺ホルモンは、体の組織の代謝を高め、脳、心臓、筋肉、肝臓など全身の臓器の代謝を調節しています。
甲状腺機能低下症とは、甲状腺が体を正常な状態に保つのに必要な十分な甲状腺ホルモンを産生できない状態です。
甲状腺機能低下症の自覚症状は、甲状腺ホルモンの欠乏の程度により変化します。
甲状腺機能低下症の最もよく認められる原因は、慢性甲状腺炎(橋本病)です。
多くの場合、甲状腺機能の低下は、数年以上の期間をかけて、ゆっくりと進行します。
最初は、甲状腺機能低下症が軽度の時には、自覚症状はほとんど認めない場合がありますが、病気の進行とともに次のような症状が出現します。
甲状腺機能低下症となり、甲状腺ホルモンを分泌するように甲状腺が刺激され続けると、甲状腺は腫大し、びまん性の甲状腺腫を認めることがあります。
高齢者では、認知症やうつの原因として、甲状腺機能低下症が挙げられます。
甲状腺機能の低下が高度の場合には、意識障害を伴う粘液水腫性昏睡と呼ばれる重篤な状態をひきおこし、入院加療が必要です。
成人の甲状腺機能低下症の原因には、次のものが挙げられます。
慢性甲状腺炎(橋本病)は、甲状腺に対する免疫異常により、甲状腺が免疫により徐々に破壊されていく病気です。
病気が進行していくと、甲状腺が破壊されつくされ、甲状腺ホルモンを分泌することができなくなります。
男性よりも女性に多い病気であり、何年にもわたってゆっくりと進行していきます。
甲状腺炎は、甲状腺に対するウイルス等の感染や免疫異常によって引き起こされます。
甲状腺に炎症が生じ、甲状腺の組織が破壊されると、一過性に大量の甲状腺ホルモンが漏出し、短期間の甲状腺機能亢進症をきたします。
その後、逆に、破壊された甲状腺では、甲状腺ホルモンの産生が不十分となり、一過性の甲状腺の機能低下をきたします。
亜急性甲状腺炎、慢性甲状腺炎などが代表的です。
甲状腺結節、甲状腺がん、バセドウ病の治療として、甲状腺を切除する場合があります。
甲状腺の甲状腺ホルモンの分泌能は、残存する甲状腺組織の量に依存します。
甲状腺組織の一部が残っている場合には、十分な甲状腺ホルモンをつくる事ができる場合があります。
バセドウ病、甲状腺がんなどの人々に対して、甲状腺を破壊する目的で放射線ヨウ素を投与することがあります。
また、頭頚部のがんや悪性リンパ腫などの疾患にたいして、放射線治療を行う場合があります。
放射線の照射を受けた甲状腺は、甲状腺ホルモンの分泌が低下し、甲状腺機能低下症をひきおこすことがあります。
甲状腺ホルモンをつくるためには、適量のヨウ素が必要です。
過剰のヨウ素を摂取すると、逆に甲状腺ホルモンの産生が抑制されることが報告されています。
ヨウ素の大量投与は、甲状腺ホルモンの産生抑制を期待して、バセドウ病の治療でも使用される事があります。
下垂体からは、甲状腺ホルモンの産生を促す、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌されています。
下垂体が、腫瘍、放射線、手術などで損傷を受けると、これらのホルモンが分泌されなくなり、甲状腺ホルモンの産生が不十分となる場合があります。
甲状腺機能低下症をひきおこす可能性のある薬には、アミオダロン、リチウム、インターフェロンα、インターロイキン2、サリドマイドなどが挙げられます。
ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料になります。
日本は、魚介類、海藻などからのヨウ素摂取量が多く、ヨウ素欠乏症はまれですが、世界の一部の地域ではヨウ素欠乏症による甲状腺機能低下症が認められます。
まれに、甲状腺に異常な物質が蓄積する事により、甲状腺機能低下症をきたします。
アミロイド蛋白の沈着するアミロイドーシス、肉芽腫ができるサルコイドーシス、鉄が沈着するヘモクロマトーシスなどが代表的です。
甲状腺機能低下症を発症するリスクが高い人は、次の人です。
上述した人では、甲状腺機能低下症の発症リスクが高くなります。
甲状腺機能低下症は次の検査により診断します。
病歴の聴取・身体診察により、甲状腺機能低下症を疑い、血液中の甲状腺ホルモンの過不足を調べます。
その後、甲状腺エコーで甲状腺の異常を検索していきます。
甲状腺機能低下症に対して有効な治療法はなく、ほとんどの患者は一旦発症すると、生涯患っています。
(例外的に、亜急性甲状腺炎・出産後の甲状腺炎の患者の多くは、甲状腺機能が正常に戻ります。)
しかし、甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンを内服することにより、完全にコントロールすることができます。
甲状腺ホルモン製剤としては、レボチロキシンナトリウム水和物(商品名:チラーヂンS)が使用されます。
チラージンSは、半減期が長く(7日間)、飲み忘れてもしばらく効いています。
甲状腺を全摘した方のレボチロキシン(商品名:チラーヂンS)の1日補充量は、100㎍~150㎍です。
甲状腺ホルモンが正常範囲内にあり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い場合には、潜在性甲状腺機能低下症と呼びます。
甲状腺ホルモンの分泌が低下しつつあり、甲状腺を刺激する事で、甲状腺ホルモンを正常に保っている状態です。
自覚症状はほとんどありません。
日本の健康な人の4%~20%に認められ、女性の年齢が上がるにつれて増加します。
将来的に、甲状腺機能低下症をきたす可能性の高い状態であり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値が持続的に10を超えた場合には、甲状腺ホルモン(レボチロキシン(商品名:チラーヂンS))の補充を少量より開始します。
以上が、甲状腺機能低下症の解説になります。参考になりましたか?
健康のことでお困りのことがあれば、ご相談下さい。
→ 「糖尿病内科 in 名古屋」のブログ記事一覧
関連記事
甲状腺の解説 ー 甲状腺の説明と甲状腺の病気一覧
甲状腺機能亢進症とは
慢性甲状腺炎(橋本病)とは
無痛性甲状腺炎とは
バセドウ病ってどんな病気?
糖尿病内科 アスクレピオス診療院(名古屋名東区)のホームはこちら
文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生