無痛性甲状腺炎とは
無痛性甲状腺炎とは
公開日: 2020年7月4日
最終更新日: 2022年12月29日
無痛性甲状腺炎は、甲状腺に痛みを伴わない炎症を生じる病気です。
甲状腺に炎症が生じる事で、甲状腺が破壊され、甲状腺に貯蔵された甲状腺ホルモンが漏出し、数週間の一過性の軽度の甲状腺機能亢進症をきたします。
その後、甲状腺ホルモンが枯渇し、数か月にわたる甲状腺機能低下症をきたします。
多くの人では、甲状腺機能は正常化しますが、一部の人では、永続的な甲状腺機能低下症を発症します。
治療は、対症療法です。
甲状腺機能亢進症の症状がある場合は、甲状腺ホルモンの作用を抑えるために、βブロッカーを投与します。
甲状腺機能低下症の症状がある場合は、甲状腺ホルモン(レボチロキシン)の補充を行います。
目次
無痛性甲状腺炎は、慢性甲状腺炎(橋本病)の亜型と考えられている疾患です。
無痛性甲状腺炎は、出産後の女性に生じる産後甲状腺炎と、それ以外の場合に分けられていますが、類似点が多いため、まとめて説明します。
無痛性甲状腺炎は、多くが、女性、特に出産後1カ月~4カ月の女性に発生します。
産後に甲状腺炎をきたす人は、世界の地域により異なり、約1%~17%と報告されています。
無痛性甲状腺炎は、甲状腺にリンパ球が浸潤し、炎症が生じる事で様々な症状をきたす疾患ですが、亜急性甲状腺炎とは異なり、甲状腺に痛みを伴いません。
無痛性甲状腺炎を発症すると、甲状腺に炎症が生じ、甲状腺が腫大し、甲状腺の組織が破壊されます。
そして、甲状腺ホルモンが血液中に漏れだし、数週間持続する一過性の甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)をきたします。
甲状腺機能亢進症の時期には、不安、不眠、動悸、頻脈、体重減少などの症状を認めますが、通常は軽度です。
→ 甲状腺機能亢進症の解説
数週間の甲状腺の機能亢進を認めた後、貯蔵していた甲状腺ホルモンが枯渇してしまうため、甲状腺ホルモンを分泌できなくなります。
そのため、甲状腺機能亢進症の1~3カ月後に、最大9カ月から12カ月持続する一過性の甲状腺機能低下症を生じます。
甲状腺機能低下症の時期には、疲労、体重増加、便秘、うつ病、むくみなどの症状が出現します。
→ 甲状腺機能低下症の解説
(産後の女性の場合は、疲労や不安などを抱えていることが多く、甲状腺機能の異常の発見が難しい場合があります。)
甲状腺の破壊に伴う甲状腺機能亢進症と、その後の甲状腺機能低下症は、常に両者の症状を認めるわけではなく、人により症状が出現する場合と出現しない場合があります。
産後の無痛性甲状腺炎では、約20%~40%の人は、甲状腺機能亢進症のみを認め、40%~50%の人は、甲状腺機能低下症のみを認めます。
無痛性甲状腺炎を発症したほとんどの患者は、甲状腺機能は自然に正常化しますが、一部の患者では、甲状腺機能低下症が永続します。
無痛性甲状腺炎の診断は、必要に応じて、次の検査を行います。
身体診察では、甲状腺全体が軽度に腫大していますが、圧痛を認めません。
甲状腺ホルモンの値は、甲状腺機能亢進症、正常、甲状腺機能低下症まで、病気の時期によってさまざまな値をとります。
無痛性甲状腺炎の約半数では、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性となります。
産後甲状腺炎では、妊娠中、および、分娩後に、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性になります。
通常は、妊娠初期の抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体価が高く、その後、妊娠中には免疫寛容が働くため、抗体価は低下し、出産後に再度上昇します。
無痛性甲状腺炎は、バセドウ病やプランマ―病との鑑別が必要です。
一般的に、出産後3か月以内の甲状腺機能亢進症の発症は、無痛性甲状腺炎を疑いますが、6カ月以降の発症は、バセドウ病の可能性が高くなります。
無痛性甲状腺炎のリスクが高い人は、次の通りです。
無痛性甲状腺炎を発症した人の約10%の人は、数年おきに無痛性甲状腺炎を繰り返します。
産後甲状腺炎のリスクが高い方は、次の通りです。
無痛性甲状腺炎の治療は、対症療法を行います。
甲状腺機能亢進症の時期には、甲状腺ホルモン過剰の症状を抑えるために、βブロッカー(プロプラノロール(先発品:インデラル)、ビソプロロールフマル酸塩(先発品:メインテート))を用います。
甲状腺機能低下症の症状を認める場合や、TSH 10mU/Uを超える潜在性甲状腺機能低下症(症状のない甲状腺機能低下症)の場合は、甲状腺ホルモン(レボチロキシン(商品名:チラーヂンS)を補充します。
産後甲状腺炎を発症した女性では、将来的に甲状腺機能低下症をきたすリスクが高いため、定期的に甲状腺ホルモンのチェックを行います。
以上が、無痛性甲状腺炎の解説です。
何か健康のことでお困りのことがあれば、ご相談頂けると幸いです。
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生