日本人の平均血圧の推移 – 1960年代~現在まで
日本人の平均血圧の推移 – 1960年代~現在まで
公開日: 2021年10月11日
最終更新日: 2021年10月14日
高血圧は、血管の壁に長期間にわたり、高い圧力が加わり続けることで、さまざまな合併症をきたす病気です。
高血圧の歴史はそこそこ古く、1896年に、現代的な水銀血圧計がイタリアで開発されました。
また、高血圧の研究の中心であるレニンが発見されたのは、ほぼ同時期の1898年であり、高血圧の歴史は、約120年と言えます。
日本で高血圧が注目を集めるようになった時期は、第二次世界大戦後、結核などの感染症による死亡が減少し、脳卒中や心筋梗塞などの死亡率が死因の第一位になった1946年頃からです。
その後、高血圧は、脳卒中や心筋梗塞などの心疾患のリスクとなり、血圧を下げることが脳や心臓などの血管の病気を抑える事につながるため、国を挙げて、血圧の管理を進めていくことになります。
今回は、日本人の平均血圧が、年代ごとにどのように推移してきたのかを解説します。
1960年代には、日本は世界で最も脳卒中による死亡率が高い国の一つでした。
脳卒中を生じる最大のリスク因子の一つには、高血圧があり、脳卒中は、血圧が高いほど、発症しやすくなることが知られています。
当時、1961年の年齢別・男女別の平均血圧は、次の通りです。
現在の人の血圧と比べると、随分と高くなっています。
上述した値は、平均血圧ですので、実際の人々の血圧は、上下に振れ幅があります。
1960年代の日本の状況は、朝鮮戦争の特需などを得て、国民所得倍増計画などが策定され、高度経済成長が始まる時期に当たります。
当時の平均血圧が高い理由としては、国民健康の管理が不十分であったことと、高血圧の薬(降圧薬)として、交感神経抑制薬や利尿薬などの効果の弱い一部の降圧薬しか存在せず、今のような優れた降圧薬がなかったことが挙げられます。
塩分の過剰摂取は、一部の人に対して高血圧を引き起こすことが知られていますが、1961年の日本人の塩分摂取量は、日本の東北地方では、一日30g近く摂取していました。
塩分の摂取量が非常に多い原因としては、日本の伝統的な食生活には、漬物、干物、味噌汁などの塩分が多く使用される料理や食品が多いことが挙げられます。
当時の平均血圧は、塩分制限や健康増進運動などの血圧管理をほとんどしない、昔の日本式の生活の自然状態の日本人の血圧だと考えても良いでしょう。
1966年には、現在でも第一選択薬として使用されるCa拮抗薬が開発され、使用されるようになり、1970年代からは、主に脳の血管の病気が原因の死亡率は、減少し始めました。
(日本人の生活様式の欧米化によって、狭心症や心筋梗塞などの死亡率は減少せず、逆に増加していきます。)
時は進み、1990年になると、年齢別・男女別の平均血圧は、次のようにかなり低下しました。
1960年代と比べると、収縮期血圧(最高血圧)は、男性では、30代で4mmHg 40代で6mmHg、50代で7mmHg、60代で15mmHg低下し、女性では、30代で9mmHg 40代で8mmHg、50代10mmHg、60代で19mmHg低下しています。
男性より女性の方が、血圧の低下が大きいですね。
(70歳では逆に拡張期血圧(最低血圧)が低くなりますが、これは動脈硬化の影響です。)
さらに、2016年には、年齢別・男女別の平均血圧は、さらに下がっています。
参考:性・年齢別の平均血圧の年次推移(1961年‐2016年)
これまでは、日本人の平均血圧は徐々に下がってきたことを説明しました。
では、平均血圧が下がると、どの程度、脳や心臓の血管の病気が減少するのでしょうか?
2012年に告示された「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21(第2次)」では、2022年までの10年間に日本人の収縮期血圧を4mmHg下げることを目標としています。
(男性 138mmHg → 134mmHg 女性 133mmHg → 129mmHg)
たった収縮期血圧が4mmHg下がるだけで、脳卒中(脳血管疾患)の死亡数は、男性で8.9% 女性で5.8%減少し、心筋梗塞などの心臓の血管病(冠動脈疾患)の死亡数は、男性で5.4%、女性で7.2%減少する試算となっています。
人数で表すと、脳卒中による死亡者数は、男女合わせて年間1万人の減少、冠動脈疾患による死亡者数は、年間5000人の減少になると言われています。
血圧を下げることによる予防効果は、年齢や性別、元々の血圧の値や糖尿病、脂質異常症などの合併の有無などで大きく変わりますが、血圧を下げることには、非常に大きな健康メリットがあると言えます。
以上です。
アスクレピオス診療院では、糖尿病や高血圧の生活習慣病の専門家が治療に当たっています。
高血圧のことでお困りなら、当院にご相談ください。
参考文献
Satoshi Umemura et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension (JSH 2019) Hypertension Research 2019
猿田 享男 日本内科学会雑誌 創立100周年記念号 皿.主要疾患の歴史 12. 高血圧 他
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生