糖尿病と下痢の関係とは?
糖尿病と下痢の関係とは?
公開日: 2020年6月1日
最終更新日: 2022年12月29日
糖尿病の約2割弱の人に、慢性的な下痢が合併します。
糖尿病性下痢の特徴は、発熱や腹痛はなく、下痢が正常便や便秘と交互に生じるなど、断続的に症状が出現する点です。
糖尿病性下痢の原因は、多くは消化管の自律神経障害によるものと考えられていますが、原因は明らかになっていません。
糖尿病性下痢の治療は、一般的に、ロペラミドなどの下痢止めが用いられますが、原因によっては、抗生剤や、膵酵素の補充などを使用する場合があります。
下痢が続く際には、糖尿病以外の原因により、下痢をきたしている可能性があるため、消化器内科での精査が必要な場合があります。
目次
糖尿病性の下痢は、常時あるわけではなく、断続的に生じ、正常な排便と、便秘とを交互に繰り返したり、一時的に生じます。
下痢は、昼と夜に生じ、水っぽく、発熱やお腹の痛みはありません。
便失禁と関連していることがあります。
糖尿病には、大別して、1型糖尿病、2型糖尿病があり、どちらのタイプの糖尿病でも下痢を認めることがあります。
糖尿病患者に下痢を伴う頻度は、報告によってまちまちですが、約8%~22%の人に合併すると報告されています。
糖尿病による下痢は、糖尿病を発症後、平均8年(数か月から数十年の範囲)で始まります。
糖尿病の合併症は、徐々に進行するため、糖尿病を患っている期間の長い人ほど、症状は出現しやすくなります。
糖尿病により下痢が生じる原因は、明らかになっていません。
現在、糖尿病性下痢の原因として、次の原因が考えられています。
下痢の発症には、1つの要素ではなく、複数の要素が関与している可能性があります。
糖尿病に下痢が合併する原因の一つとして、糖尿病の三大合併症(細小血管合併症)である神経障害の関与が考えられています。
→ 糖尿病性神経障害 の解説記事
糖尿病になり、血糖値(血液中の糖分)が高い状態が続くと、全身の神経が障害されます。
糖尿病で障害される神経には、運動神経、感覚神経、自律神経があり、糖尿病性下痢の原因になるのは、自律神経の障害です。
自律神経は、胃、小腸、大腸などの消化管の機能や運動を調節しています。
消化管の自律神経の働きが障害されると、小腸や大腸などの腸管の動きや消化吸収の調節がおかしくなり、下痢や便秘、その他の問題をきたします。
腸管の運動や消化吸収が障害されると、腸管内を食物や液体の移動するスピードが遅くなります。
その結果、小腸内の細菌が異常増殖がおこり、下痢の原因になります。
膵臓は、インスリンなどのホルモンを分泌する傍らで、食物の消化吸収を促す消化酵素(アミラーゼ・リパーゼなど)を分泌しています。
膵臓の外分泌機能が低下すると、食物の消化が不十分となり、下痢をきたしやすくなります。
膵臓の外分泌機能不全は、1型糖尿病患者の25-74%、2型糖尿病患者の28-54%に認められると報告されています。(1)
肛門と直腸によって、常時、便は排泄されないようになっています。
糖尿病により、自律神経が障害されると、肛門や直腸の機能が障害され、便失禁をきたすことがあります。
米国の調査では、糖尿病性の下痢のほぼ半数の方には、失禁の経験があったと報告されています。(2)
糖尿病の血糖管理にはさまざまな血糖降下薬(血糖値を下げる働きをもつ薬)を用います
一部の血糖降下薬は、下痢の副作用をきたすものがあります。
メトホルミン(商品名:メトグルコ)は、世界で最もよく使用されている血糖降下薬です。
メトグルコの内服開始時には、高率(薬剤の添付文書では40.5%)で、下痢の副作用をきたすことがあります。
メトグルコによる下痢は、薬を飲み続けると、徐々に改善してきます。
初回の投与量が多いと、下痢の副作用をきたす確率が高くなることが報告されています。
。(3)
そのため、メトグルコを開始する場合は、500mg/日から初めて、徐々に増量していきます。
糖尿病の薬の副作用で下痢を生じる薬としては、メトグルコ以外にも、リラグルチド(商品名:リラグルチド)などのGLP-1受容体作動薬、経口血糖降下薬のDPP-4阻害薬、コレステロールを下げる薬のスタチンがあります。
→ メトグルコ(ビグアナイド薬)の解説
米国の1型糖尿病の10%の人には、セリアック病があると考えられています。
セリアック病は、小麦に含まれるタンパクであるグルテンに対して過敏に免疫が反応することで、小腸粘膜に炎症が生じ、下痢や栄養素の吸収不全を認める疾患です。
セリアック病は、欧米で多く認められる疾患であり、頻度は、欧州(特にアイルランドおよびイタリア)で150人に1人、米国の一部の地域ではおそらく250人に1人であるとされています。
日本では、患者数は、人口の0.05%と言われており、非常にまれな疾患です。
下痢は、糖尿病以外の病気でも生じることがあり、他の種類の下痢と区別するのは難しい場合があります。
糖尿病による下痢では、発熱、腹痛、血便等をきたすことはありません。
糖尿病以外の下痢の原因の例の表
糖尿病性下痢の治療は、原因によりますが、一般的に、ロペラミドような下痢止めを使用します。
下痢の頻度を減らすためには、鎮痙薬を用いることもあります。
すべての糖尿病性神経障害と同様に、症状を制御するには、食後を含めた高血糖を避け、血糖コントロールを良好に保つことが重要です。
原因別の治療法としては、
腸内の細菌の異常増殖が疑われる場合には、抗生物質を10日~14日間程度、使用します。
膵臓の外分泌機能不全が疑われる場合には、膵酵素を補充します。
下痢の症状がひどい場合には、脱水症をきたすことがあるため、水分摂取が必要になる場合があります。
水分補給には、電解質の補充も可能な経口補水液(例 : 大塚製薬 OS-1)を用いた方が良いでしょう。
→ 経口補水液 OS-1(大塚製薬) 外部リンク
標準的な治療法の効果がない場合や下痢の原因検索が必要な場合には、糖尿病以外の他の原因を精査するために、消化器内科に紹介することがあります。
糖尿病と下痢についての解説は、以上になります。
もし、糖尿病のことでお困りなら、糖尿病の専門家にご相談頂けると幸いです。
参考文献
M A Valdovinos et al. Chronic Diarrhea in Diabetes Mellitus: Mechanisms and an Approach to Diagnosis and Treatment. Mayo Clin Proc. 1993 他
→ 「糖尿病内科 in 名古屋」のブログ記事一覧
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生