高血圧は、長期にわたり、高い圧力が血管壁(主として動脈)にかかり続けることで、血管が障害され、動脈硬化などの変化をきたし、さまざまな合併症をきたす病気です。
高血圧の代表的な合併症には、脳卒中や心筋梗塞などの脳や血管の病気が挙げられます。
血圧は高くなればなるほど、血管が破れたり、傷みやすくなるため、脳や心臓の血管の合併症を生じるリスクは高くなることが知られています。
現在の高血圧の基準値(診察室血圧 140/90mmHg以上、家庭血圧 135/85mmHg以上)は、脳や心臓など血管合併症や死亡リスクが増える血圧の値を参考にして、定められています。
では、昔の高血圧の基準はどのような値だったのでしょうか?
今回は、高血圧の基準の変遷について解説します。
日本の高血圧の基準の変遷
血圧を測定するときには、血圧計が必要です。
世界初の血圧計である水銀血圧計は、1896年にイタリアの医師リバ・ロッチによって発明されました。
現在の電子血圧計ができる前は、水銀柱の血圧計と、聴診器を組み合わせて、血圧測定を行っていました。
現代にも通じる正確な血圧測定ができるようになったのは、1905年に、ロシア帝国の軍医であるコロトコフが、血圧計のマンシェットの減圧とともに、心臓の拍動に応じて血管壁の振動によって発生する音を発見してからになります。
世界で高血圧がリスクとなることが注目されたのは、1950年頃に、米国の保険会社が保険金の設定のために、血圧測定を大人数に行い、余命との関連性を調査したのが、始まりだと言われています。
正確な資料は、発見できなかったのですが、昔の血圧は、「年齢+90」の値が目安とされ、おおよそ160mmHgまでの血圧は正常値と考えていたようです。
参考:1961年の日本人の平均血圧
- 30代 男性 130/76 mmHg 女性 127/75mmHg
- 40代 男性 136/81 mmHg 女性 136/80mmHg
- 50代 男性 147/86 mmHg 女性 147/85mmHg
- 60代 男性 160/88 mmHg 女性 164/89mmHg
→ 日本人の平均血圧の推移 – 1960年代~現在までの解説
当時から血圧が高いほど、脳や心臓などの血管の病気が増えることが知られていました。
1966年には、現在でも第一選択薬として使用されるCa拮抗薬が開発され、使用されるようになり、1970年代からは、主に脳の血管の病気が原因の死亡率は、減少し始めました。
1987年には、旧厚労省が180/100mmHgを高血圧の基準としました。
現在の基準と比較すると、1987年の高血圧の基準は、かなり高いですね。
2000年には、日本高血圧学会が140/90mmHgという基準値を示しました。
当時の基準は、年齢ごとに異なっており、70代は150mmHg未満、80代は160mmH未満とされていたようです。
2004年には、日本高血圧学会は、これまでの診断基準を改正し、65歳以上の高齢者の高血圧の基準も、他の年代と同じように、140/90mmHg以上になりました。
この140/90mmHg以上を高血圧とする基準は、現在の日本の高血圧の基準になっています。
高血圧の基準は、世界の地域により異なる。
高血圧の基準は、以前は、世界で140/90mmHgで共通していましたが、現在では、世界の各地域で異なる場合があります。
例えば、米国では、2017年に、高血圧の基準が、140/90mmHg以上から、130/80mmHg未満に引き下げられました。(米国心臓病学会/協会ガイドラインより)
世界の地域ごとに、高血圧の基準が違う理由としては、人種、性別、食生活などの風土によって、世界の各地域で、脳や心臓などの病気を発症するリスクが異なっているからだと思われます。
地域によって発症しやすい病気が違う例を挙げると、日本人は、米国人と比較して、脳卒中は多いものの、心筋梗塞は少ないことが知られています。
高血圧の基準は、血圧が高くなった結果、脳や心臓などの合併症や死亡リスクが増えたり、降圧によってリスクが低下したりする水準の血圧を採用しています。
そのため、世界の各地域によって、高血圧による病気の発症リスクや専門家が重視する事柄が異なれば、高血圧の基準も違ってくるというわけですね。
高血圧の基準の推移の解説は、以上です。
アスクレピオス診療院では、糖尿病や高血圧の生活習慣病の専門家が治療に当たっています。
高血圧のことでお困りなら、当院にご相談ください。