SGLT2阻害薬と1型糖尿病(保険適応と効能の解説)
SGLT2阻害薬と1型糖尿病(保険適応と効能の解説)
公開日: 2019年11月8日
最終更新日: 2022年12月30日
SGLT2阻害薬は、血糖降下作用だけでなく、体重減少作用、心疾患リスク低減、腎保護作用などさまざまな利点をもつ薬です。
血糖降下作用は、尿糖が増える事により生じるため、インスリン作用を介しません。
そのため、SGLT2阻害薬は、1型糖尿病患者にも効果が望めます。
1型糖尿病の人に投与した場合のネックとなるのが、その臨床効果と副作用のバランスです。
臨床効果は、血糖降下作用の他に、基礎インスリンの減量を主とする総インスリン量の減少、体重減少が報告されています。
現時点では、1型糖尿病の糖尿病性腎症からの保護作用などの副次的効果は明らかになっていません。
副作用としては、低血糖とケトアシドーシスが懸念されており、一部のSGLT2阻害薬では、重症低血糖・ケトアシドーシスの増加により、開発が見送られています。
現在、日本国内で1型糖尿病患者さんに対して適応のあるSGLT2阻害薬は、次の二つです。
海外の1型糖尿病に対して、SGLT2阻害薬を投与した臨床試験では、次の効果が示されています。
副作用としては、尿路感染症・性器感染症は2型糖尿病の方と同等に増えるようです。
しかし、懸念されていた低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスのリスクについては、臨床試験の結果が、各々のSGLT2阻害薬で結果がバラバラなため、見解が統一していません。
「臨床試験の例」
エンパグリフロジン(日本の商品名:ジャディアンス)25mgを、1型糖尿病の若年成人に8週間投与した際の結果では、HbA1cが平均0.3%低下し、一日総インスリン投与量は、基礎インスリン量が主として減少し、平均54.7単位から、平均45.8単位に減少しました。
体重減少も認め、平均72.6kgから平均70.0kgになっています。
副作用としては、意外な事に、症候性低血糖の増加を認めていません。(1)
カナグリフロジン(日本の商品名 カナグル)100mg、または、300mgを、1型糖尿病の成人に、18週間投与した臨床試験が行われています。
カナグリフロジン100mgを投与した結果では、HbA1Cは平均0.3%低下し、体重は、平均―3.4%減少し、一日総インスリン投与量は、基礎インスリンが主に減少し、4.1単位(8.9%)減少しました。
副作用としては、低血糖の発生率は、すべてのグループでほぼ同等でしたが、カナグリフロジン300mgの投与群では、重度の低血糖が報告されています。また、カナグリフロジン投与群では、糖尿病性ケトアシドーシスが報告されました。(2)
この結果、1型糖尿病へのカナグリフロジンの効果はこれ以上、探求はされていません。
ダパグリフロジン(日本の商品名:フォシーガ)5mg、または、10mgを、1型糖尿病の成人に、24週間、もしくは、28週間投与した臨床試験の結果では、ダパグリフロジン5mgを投与した群では、HbA1cが平均0.42%低下し、一日総インスリン投与量は、平均8.8%減少し、平均2.96%の体重減少も認めました。
副作用としては、症候性低血糖の増加を認めませんでした。(3)
1型糖尿病では、インスリン分泌能が枯渇している場合も多く、インスリン強化療法にて血糖管理が行われます。
内因性インスリンが枯渇している場合には、血糖値が不安定になりやすく、低血糖を繰り返している場合には、低血糖時の血糖上昇の反応が生じにくくなります。
1型糖尿病の方が、SGLT2阻害薬を内服中に低血糖をきたすと、尿中に糖分がもれていきますので、低血糖が遷延したり、重篤化するリスクが考えられます。
ケトアシドーシスについては、SGLT2阻害薬で生じる正常血糖糖尿病性ケトアシーシスと、1型糖尿病のインスリン作用不全で生じる糖尿病性ケトアシドーシスは、主たる発症メカニズムが異なるため、リスクは上昇しないかもしれません。
1型糖尿病の方へ長期投与した際の心血管系保護作用や腎保護作用などの副次的効果は、今のところ不明です。
将来的に、腎保護効果が判明した場合には、糖尿病性腎症を伴う1型糖尿病患者さんには、SGLT2阻害薬は良い適応の薬だと考えます。
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生