糖尿病の足病変 - 足病変の原因と壊疽・潰瘍予防のフットケアを含めた解説
糖尿病の足病変 - 足病変の原因と壊疽・潰瘍予防のフットケアを含めた解説
公開日: 2019年10月23日
最終更新日: 2022年12月30日
糖尿病の方の足には、
さまざまな合併症が生じます。
今回は、足の合併症と糖尿病のフットケアを含めて説明します。
目次
糖尿病は、血糖値が高くなることで様々な合併症を引き起こす病気です。
血糖コントロールが悪ければ悪いほど、
合併症はおこりやすくなります。
→ 糖尿病の入門記事
→ 糖尿病の三大合併症の記事
糖尿病により、足には様々な合併症がおきます。
足の合併症をきたす主たる原因には、
① 糖尿病によって足の神経が壊れて、温度や痛覚などが分からなくなる。(糖尿病性神経障害)(1)
② 下肢の血管(動脈)が狭くなったり、詰まったりする。(末梢血管疾患)(2)
③ 高血糖によって感染に弱くなる。(易感染性)(3)
があり、一つ一つ解説していきます。
長期間、高血糖が続くと、
神経は徐々に痛んできます。
神経には、太い運動神経から、細い知覚神経までさまざまな神経があります。
糖尿病では、太い神経(運動神経)から細い神経(感覚神経や自律神経)まで、すべて障害されます。
糖尿病の足の合併症で、
多くの方で問題になるのは、知覚などの細い神経の障害です。
糖尿病の人では、両足にしびれ、痛み、感覚が鈍い感じ、灼熱感がある方がみえます。
これは、温度や痛覚などを司る細い神経が障害されると認められます。
また、位置覚といって、現在、足がどちらの方向を向いているかを感知する神経が障害されると、
暗い道では足がどちらの方向を向いているかが分からなくなり、躓きやすくなったりします。
足の感覚が障害されてしまうと、歩行する時には、足が正しく動かなくなり、
足のどこかに過度の圧力がかかり、足が変形したり、怪我をする事があります。
糖尿病の神経障害は、神経が長くなるほど障害を受けやすい性質があるため、
足先から、下腿、膝、太ももと、だんだん上に向かって、神経障害の範囲は広がっていきます。
(糖尿病の神経障害は、足先から障害され、靴下と手袋をはめた形に障害されるため、手袋靴下型の神経障害と呼ばれます。)
最初は、手足がしびれたり、感覚が鈍くなる程度で済んでいた神経障害も、
糖尿病の管理が悪く、ひどくなると、神経はどんどん壊れてしまい、熱、寒さ、痛みなどの感覚を感じづらくなります。
最終的に、足の痛みがなくなるほど、
神経が障害されてしまうと、
足に怪我しても全く自覚症状がなく、
ひどくなるまで気が付かなかったり、
湯たんぽなどの熱さが分からず、
低温やけどを負ってしまうことがあります。
足の感覚が全くない人では、
足にウジが湧くまで放置されている人もみえます。
頻度的にまれですが、太い運動神経も障害されることがあり、その場合には、足が垂れたり、しびれたりする症状が出現します。
(糖尿病性腓骨神経麻痺)(4)
→ 糖尿病性神経障害 の解説記事
糖尿病の管理が悪いと、高血糖によって、太い血管(動脈)が動脈硬化をきたしたり、細い血管(毛細血管)が故障したりします。
この太い血管(動脈)におこる動脈硬化は、糖尿病の代表的な合併症です。
太い血管(動脈)には、首の血管、大動脈、心臓の血管などいろいろとあり、
下肢には、大腿動脈、膝下動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈等があります。
この下肢の動脈に、動脈硬化が進むと、動脈が狭くなったり、血管が詰まったりする事もあります。
下肢の動脈が狭くなったり、詰まってしまうと、
当然、血液は流れにくくなりますので、下肢は虚血になります。
血液の流れが悪い場合にも、少し流れにくい状態から、全く流れない状態まで様々です。
症状も下肢のつまりの状態に応じて、下記のように変化します。(5)
① 無症状で、冷感があったり、しびれる。
② 運動したときだけ、血流不足で酸素や栄養が足りなくなり、痛みなどの症状がある。(間欠性跛行)
③ 安静時にも、血流不足で痛みなどの症状がある。
④ 血流が悪すぎて、足の組織が死ぬ。
(壊疽・潰瘍)
以上です。
腕や足といった体の末梢の血流が悪くなって生じる病気を「末梢血管疾患」と呼びます。
高血糖では、多形核白血球の動員の減少、走化性、および高血糖症に関連した食作用活性を含む、宿主免疫防御の障害が報告されています。
つまり、血糖値が高くなると、免疫能が低下し、感染に弱くなります。
足の細かい傷から細菌が入ると、
細菌が増えて、ひどくなりやすいという事です。
(6)
糖尿病の方の足の感染症で代表的なものとしては、水虫(白癬)が挙げられます。
水虫菌(白癬菌)は、足の皮膚だけでなく、爪にも感染することがあります。
皮膚に水虫菌(白癬菌)が感染すると、
足の指の間がじゅくじゅくする趾間型、
足の裏の皮が厚くなり、表面がざらざらする角質増殖型、
足の裏やふちに、小さな水疱ができる小水疱型
などさまざまな皮膚症状をおこします。
爪に白癬菌が感染すると、爪の色が変色し、厚くなり、もろくなります。
先ほどの足の症状をきたす原因、爪が肥厚する原因には、水虫(白癬)以外の場合があります。
治療の前に真菌検査で白癬菌を確認した方が良いでしょう。
白癬の写真はこちら(外部リンク)
糖尿病の人の足は、皮膚の神経障害や血流不全による発汗異常などにより、
乾燥する場合があります。
皮膚が乾燥すると、感染症に弱くなるので、保湿します。
(7)
日本人の糖尿病足潰瘍の年間発症率は0.3%、切断率は0.05%と報告されており、海外の10分の1程度です。
足の潰瘍は、最初は、靴擦れなどの小さな傷からでも生じることがあります。
傷口に感染を起こすと、感染が広がり、潰瘍になることがあります。
潰瘍の治療については、主治医に相談しましょう。
足の爪の縁が、柔らかい肉に食い込むことでおきる病気です。
爪の縁が皮膚を傷つけ、そのから細菌が侵入し、発赤、腫れ、痛み、排液、感染などを引き起こすことがあります。
陥入爪の原因には、不適切な爪切りや靴による圧迫があります。
足の爪が陥入しないように、爪を切りそろえます。
(7)
足の神経が障害されると 関節やその他の足の変形をきたすことがあります。
糖尿病の足変形として代表的なものには、ハンマートゥとシャルコー関節が挙げられます。
シャルコー関節は、内側縦アーチの扁平化と踵骨足根骨の内側転位 をきたします。
足の裏の出っ張るところがこすれて、潰瘍になりやすい。
つまるところ、
足の神経が痛む → 歩き方がおかしくなり、足に負担がかかる。
→ 足が変形して一部が出っ張る → 出っ張りがこすれて潰瘍ができる。
以上です。
糖尿病になると、神経と血管の両方が傷み、さまざまな症状が出る事をお話ししました。
糖尿病による足の病変の発見には、定期的に評価することが必要です。
糖尿病の専門家の先生は、
1 足の知覚障害や血管の狭窄の評価
2 履物が合わない事などによる外傷の有無
3 神経障害に伴う足の変形
4 足の水虫(白癬)などの感染
などのポイントを抑えながら診察しています。
血糖管理をよくすることで、すべての糖尿病の合併症のリスクを減らすことができます。
血糖値の管理には、食事療法、運動療法に加えて、薬物療法が重要です。
足潰瘍・足の変形などの重度の糖尿病足病変をもつ人では、運動療法を行えない場合があります。
主治医の先生と相談しましょう。
(9)
喫煙は、心血管の病気の発症や進行を促します。
喫煙は、糖尿病による下肢切断のリスクになります。禁煙は、合併症のリスクを低減できます。
糖尿病による神経障害が進んだ方や、足の血液の流れが非常に悪い方では、足を傷つけることを避ける必要があります。
具体的には、
① 足に湯たんぽなどの保温器具を使用すること
② 温度を確認する前にお風呂に入ること
などです。
足の神経の障害が進み、温度が分からない方や痛みのない方には、熱いお風呂や暖房器具は危険な場合があります。
足の爪を切る場合には、深爪を避けて、真っ直ぐに切ってください。
足を深爪すると、爪の両端が皮膚に食い込む場合があります。
巻き爪など爪の変形が強い場合には、皮膚科の先生に相談して下さい。
毎日、足をよく洗って清潔に保ちます。
自分の目で両足に皮膚の異常(擦り傷、潰瘍、水ぶくれ、腫れ、発赤など)がないかを確認します。
つま先や足の指の間は見落としやすいので、注意して見るようにしてください。
足の皮膚に穴があいていたり、赤くなっている時には、そこから潰瘍ができたり、細菌が侵入して、感染症を生じることがあります。
異常に気付いたら、主治医に相談しましょう。
(10)
糖尿病の方の足は、変形していることも多く、靴については、歩きやすく、足の一部に圧力がかからず、歩くときにこすれないようなものを選びます。
足の強い変形や潰瘍がある場合には、自分の足にあった靴の作成も考慮します。
足の潰瘍や感染がある場合には放置せずに、
主治医の先生に報告して、治療方針を相談して下さい。
糖尿病になると、体のあちこちに合併症がでてきます。
糖尿病の方は御自身の足にも注意しましょう。
→ 「糖尿病内科 in 名古屋」の記事一覧
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔