降圧薬を3種類以上使用しても、血圧が目標血圧まで下がらない高血圧を「治療抵抗性高血圧」と呼びます。
薬を飲んでも血圧が下がらないと感じたときは、はじめに、ご自身で自宅で血圧を正しい方法で測定し、処方された薬を用法用量を守って服用しましょう。
それでも、血圧が高い状態が続くときには、血圧が下がらない理由として、ホルモン異常などの別の病気がある可能性があります。
治療をしているにも関わらず、血圧が高い時には、専門家に相談しましょう。
治療抵抗性高血圧とはどんな病気ですか?
治療抵抗性高血圧とは、3種類以上の降圧薬を使用しても、血圧の降下が不十分であり、目標血圧まで血圧が下がらない高血圧のことです。
治療抵抗性高血圧の自覚症状について教えてください。
高血圧は、自覚症状のほとんどない病気です。
高血圧の人に、何らかの自覚症状がある場合には、高血圧とは別の原因によって生じている場合がほとんどです。
ただし、著しく血圧が高い(180/120 ㎜Hg以上)場合には、頭痛、胸の痛み、呼吸困難、視力の異常、悪心などの自覚症状が出現する場合があり、高血圧緊急症と呼ばれます。
安静にしたのちに血圧を再測定しても、著しい高血圧と自覚症状が続く場合には、医師に速やかに相談しましょう。
治療抵抗性高血圧だと、どんな問題が生じますか?
治療抵抗性高血圧症の人では、血圧の降下が不十分なため、高血圧が目標範囲に管理されている人と比べて、脳卒中や心筋梗塞、腎不全などの高血圧の合併症を生じるリスクが増加します。
血圧が高いだけでは、日常生活に大きな支障はありません。
しかし、脳卒中により麻痺が生じたり、心筋梗塞によって心臓のポンプ機能が障害されると、日常生活を営むことが難しくなる場合があります。
治療抵抗性高血圧を疑ったときに、最初にすることは何ですか?
降圧薬を内服しても、血圧の下がりが悪いなと感じた際には、はじめに、次の3つのことをご自身で行いましょう。
正しく血圧が測定できているかを確認しましょう
治療抵抗性高血圧を疑った場合には、きちんと血圧が正しく測定できているかを確認しましょう。
走った後や興奮しているとき、血圧計のマンシェット(血圧測定のカバー)が小さいときなどには、本来の血圧よりも、測定値が高くなることがあります。
血圧が正しく測定できているかを確認しましょう。
白衣高血圧の可能性があるため、自宅で血圧測定をしましょう。
治療抵抗性高血圧を疑った際には、白衣高血圧の可能性があるため、自宅で血圧を測定します。
白衣高血圧とは、診察以外の血圧が正常なのにも関わらず、診察室で測定すると血圧が高くなる高血圧です。
診察室では、緊張して血圧が高くなる方もいますので、自宅での血圧測定を必ず行いましょう。
降圧薬は、指示されたどおりのタイミングと用量で内服しましょう。
当然のことですが、薬は飲まなければ効きません。
血圧が下がらない時には、医師から指示されたどおりの種類やタイミングで、薬を内服しているかを確認しましょう。
薬には、効果時間が長いものもあれば、短いものもあります。
薬の内服タイミングを、自分の判断で変えると、降圧効果が不十分となる可能性があります。
降圧薬を服用しても、血圧が下がりにくい人がいる理由を教えてください。
降圧薬を服用しても血圧が下がらない原因は、大きく分けて、次の三つです。
治療抵抗性高血圧の原因
- 血圧を上昇させる他の病気があるとき
- 薬剤の副作用
- その他の原因
血圧を上昇させる他の病気があるとき(二次性高血圧)
高血圧の約9割は、本態性高血圧と呼ばれる明らかな原因のない高血圧ですが、一部の高血圧には、高血圧を引き起こす病気が隠れている場合があります。
高血圧をきたす病気には、腎臓の病気、ホルモン異常、睡眠時の無呼吸、大動脈の狭窄など、さまざまな病気が挙げられます。
高血圧をきたす病気(二次性高血圧をきたす病気)
- 腎血管性高血圧
- 腎実質性高血圧
- 原発性アルドステロン症
- 褐色細胞腫
- クッシング症候群
- 甲状腺機能亢進症
- 甲状腺機能低下症
- 副甲状腺機能亢進症
- 睡眠時無呼吸症候群
- 脳幹部血管圧迫
- 大動脈狭窄症
別の病気が原因になって、血圧が高くなっている場合を、二次性高血圧と呼びます。
二次性高血圧で最も多い原因としては、原発性アルドステロン症であり、高血圧患者のうち、約3~10%が原発性アルドステロン症と言われています。
治療抵抗性高血圧の人に限ると、治療抵抗性高血圧の原因の約20%は、原発性アルドステロン症と推定されています。
高血圧自体は、自覚症状をほとんど認めない病気ですが、二次性高血圧の患者では、病気によっては、各病気に特有のさまざまな自覚症状を認めます。
二次性高血圧の診断には、病歴の聴取、身体診察、腎機能、電解質、ホルモン値などの血液検査、超音波検査、CT、MRIなどの各種検査が必要になる場合があります。
薬剤の副作用による高血圧
一部の薬剤では、副作用により、血圧が高くなる場合があります。
高血圧の副作用のある薬は、次の通りです。
高血圧の副作用のある薬
- 鎮痛薬(NSAID・非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン、アスピリン)
- 注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療薬(メチルフェニデート、アンフェタミンなど)
- 抗うつ薬(三環系抗うつ薬、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬など)
- 非定型抗精神病薬(オランザピンなど)
- ステロイドホルモン(グルココルチコイド、エストロゲン、アンドロゲンなど)(
- 鼻うっ血除去薬(エフェドリンなど)
- 経口避妊薬(ピル)
- 甘草を含む漢方薬
- 一部の抗がん薬(アバスチンなど)
- アルコール
治療抵抗性高血圧のその他の原因
治療抵抗性高血圧の人では、アルドステロンというホルモンが過剰になっていることが多く認められます。
アルドステロンは、体にナトリウム(塩分)と水分をためる働きをしており、アルドステロンが過剰に分泌されると、体内の血液量が増えて、血圧が高くなります。
アルドステロンが過剰に分泌される原因としては、原発性アルドステロン症がありますが、原発性アルドステロン症の診断基準を満たさない人でも、血中のアルドステロンが過剰になっている人がいます。
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男女ともに体重が増加するにつれて、血中アルドステロン値は高くなることが知られており、肥満者や太りすぎの人では、血中のアルドステロン値が高くなりやすくなります。
肥満、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)のある人は、治療抵抗性高血圧症をきたすリスクが高くなることが知られています。
治療抵抗性高血圧の治療について教えてください。
治療抵抗性高血圧の治療は、高血圧を悪化させる生活習慣の改善、高血圧をきたす病気の治療や薬物の変更・中止、降圧薬の増量を行います。
生活習慣の改善としては、一般的な高血圧の治療と同じように、肥満の人なら体重を減量し、塩分の取りすぎや野菜・果物を摂取するなど、食生活を見直します。
また、アルコールの飲み過ぎも、血圧を上昇させる可能性があるため、適度な飲酒にとどめます。
治療抵抗性高血圧の生活習慣の改善のポイント
- 太りすぎや肥満の場合は、体重を減らす
- 塩分摂取を減らす
- 野菜や果物などを摂取する
- 定期的に運動する
- アルコールを控える
高血圧をきたす他の病気や薬物の使用がある場合には、他の病気の治療や薬物の中止・変更を考慮します。
高血圧をきたす病気の根本的な治療が困難な場合(例:慢性腎不全)、薬剤の中止・変更が困難な場合、明らかな原因がない場合は、はじめに、生活習慣の見直しを行います。
降圧薬の内服回数等が多いため、薬の飲み忘れが問題になっている場合には、降圧薬を長時間効果の持続する薬に変更して、朝一回に内服をまとめます。
降圧薬を3種類使用する場合には、Ca拮抗薬(例:アムロジピン)、ACE阻害薬/ARB(例:イルベサルタン)、利尿薬(例:インダパミド)の三種類を使用することが一般的です。
治療抵抗性高血圧の人では、アルドステロンが過剰に分泌されていることが多いため、アルドステロンの作用を抑制するスピノロラクトン(先発品:アルダクトン)やエプレレノン(先発品:セララ)などのアルドステロン拮抗薬の追加により、血圧が大きく下がる場合があります。