HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)って何?
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)って何?
公開日: 2019年10月4日
最終更新日: 2022年12月30日
HbA1cって何?
急に言われて答えられる方は稀だと思います
健康診断の結果説明や、通院している時に
「前回の健康診断のHbA1cは、7.0%と高いですね。一度、糖尿病の精密検査をしましょう。」
「今日のHbA1cは、6.0%です。良いですね。この調子で治療を続けてください。」
「今日のHbA1c ・・・ 9.0%ですね。大分上がっていますよ。最近、間食は増えてないですか?」
などと説明される事があります。
このように、糖尿病の治療で参考にしているHbA1cですが、
HbA1cって何なのでしょうか?
今回は、この「HbA1c」について
糖尿病の勉強を始めようと考えている方
最近、糖尿病と診断された方 に向けて
分かりやすく解説します。
目次
HbA1cは、ヘモグロビンエーワンシーと読みます。
はじめに、ヘモグロビンについて解説します。
ヘモグロビンは、血液中の赤血球に含まれているタンパクの一種です。
主に、鉄でできているヘムと、たんぱく質でできているグロビンの2つの成分でできています。
ヘモグロビンは、酸素と結合する性質があり、肺で取り込まれた酸素を、全身の細胞に運搬する役割を担っています。(1)
このヘモグロビンは、酸素だけでなく、糖分(ブドウ糖・グルコース)とも結合しやすい性質をもっています。
血液中のヘモグロビンに、糖分が、がっちり安定して結合したものは、糖化ヘモグロビンと呼ばれます。(2)
ヘモグロビンにはたくさんの種類があり、
糖化ヘモグロビンの中でも、
ヘモグロビンのβ鎖のN末端にグルコースが結合したヘモグロビンを
HbA1cと呼んでいます。
HbA1cは、糖分が安定して結合したヘモグロビンという事を説明しました。
では、なぜ、HbA1cを、糖尿病の診断や治療の際に、測定しているのでしょうか?
それは、HbA1cは、長期(過去2~3カ月)の血糖値の平均値と相関するからです。(3)
ヘモグロビンは、血液中の赤血球に含まれ、
血液中の糖分(グルコース)の値が多くなると、ヘモグロビンにも、より多くの糖分がくっつきます。
そして、時間とともに、ヘモグロビンに糖分が結合していきます。
(このために、HbA1cは平均血糖値と相関します。)
しかし、赤血球には寿命があり、骨髄で作られた後に、120日間経つと壊されます。(4)
(HbA1cが過去2~3カ月の間の血糖値を反映する理由です。)
以上のことから、HbA1cは、過去2~3カ月程度の平均血糖値を反映します。
血糖値は、食事を食べると、食事中の糖分の影響を受け、上下する一方で、
HbA1cは、長期間の血糖値を反映する上に、一日の中でいつ測定しても数値は変わりません。
使い勝手が良いですね。
→ 糖尿病ってどんな病気? の記事
次に、HbA1cと血糖値の関係を見てみましょう。
健常の方の血糖値は、食前・食後ともに、100mg/dl前後に維持されています。
これが、糖尿病になると、徐々に食後の血糖値から上昇していきます。
次の図は、米国・欧州・アジア・アフリカの11か所の国際センターで、1型糖尿病、2型糖尿病、健常者の方の一日の平均血糖値とHbA1cの関係を調べたものです。
HbA1cは、過去の1~2カ月の平均血糖値を反映すると説明しました。
糖尿病は、血糖値が高くなり、さまざまな合併症をきたす病気です。
代表的なものには、三大合併症と言われる網膜症・腎症・神経症と、心筋梗塞・脳梗塞などの動脈硬化による病気です。
また、認知症や一部のがんのリスクが増える事が知られています。
→ 糖尿病の三大合併症 の記事
糖尿病になると、血液の流れる場所は、大体のところが故障しやすくなります。
そのため、糖尿病は、全身の臓器が故障する病気と考えると分かりやすいです。
ここまでの話から想像すると、
HbA1cが高い = 血糖値が高い = 合併症が増える。 の関係がありそうですね。
下の図は、HbA1cと糖尿病三大合併症のリスクを表した図です。
(出典は、Diabetes Control and Complications Trial という、
血糖値を正常に近づけると、糖尿病合併症の発症を抑える事ができるのかを検討した海外の臨床研究です。)
HbA1cが高くなると、糖尿病合併症が増える事は説明しました。
それでは、どの程度まで、HbA1cを下げる = 血糖値を正常に近づけると、
糖尿病の合併症の発症を防ぐことができるのでしょうか?
これを日本人を対象として調査した研究に「熊本研究」というものがあります。
下の図は、その熊本研究の中で、
HbA1cと、糖尿病合併症(網膜症、腎症)の悪化率を調査した結果の一部です。
糖尿病歴 15年のタロウさんは、自分の合併症や自覚症状がどんどんと進行していることから、一念発起して、食事療法・運動療法に加えて、
クリニックの主治医の先生に薬をどんどん追加してもらいHbA1c 9.0%から、HbA1c 5.6%まで下げる事に成功しました。
しかし、最近、食事前には空腹感があり、なんだか眼もかすんで見えます。
空腹感があるため、食事を食べすぎてしまい、どんどん太ってきました。
彼の体(血糖管理)には何が起こっているのでしょうか・・
HbA1cは、過去1~2カ月間の平均血糖値であることを説明しました。
しかし、あくまで平均の血糖値であるため、
一日中ずっと、食前・食後が100mg/dlの人も。
食前や夜間は、50mg/dlと低血糖が続き、食後に300mg/dlまで上昇する人も、
平均血糖値は同じになる場合があります。
糖尿病の治療は、糖尿病の合併症の発症や進行を抑えるために行います。
糖尿病の合併症が進行するには、数年~十数年の歳月が必要です。
若い人であれば、しっかりと、血糖値をコントロールすべきと思います。
では、高齢者の場合は、どこまで血糖コントロールすべきでしょうか?
前回、HbA1cの正常化を目指し、血糖値を下げるにつれて、低血糖のリスクが増していくという説明をしました。
特に高齢者が低血糖をおこすと、
① 認知症のリスクになる。(6)
② 心筋梗塞や不整脈などを誘発するリスクになる。(7)(8)
③ ぼーとして、転倒してしまい、骨折のリスクになる。(9)
など、悪影響は非常に大きくなります。
また、高齢者は、若い方と比較して、
① 腎臓・肝臓などの代謝機能が低下しており、薬が体に蓄積しやすい。
② 胃腸かぜなどの感染症の時に、食事がとれなくなることが多い。
など、重篤な低血糖になりやすい背景があります。
そのため、日本糖尿病学会の高齢の糖尿病の方のHbA1cの管理目標値は下記の通りになっています。
・・・この表は非常に分かりにくいですね。
分かりやすくポイントを説明すると、
高齢者の糖尿病を治療する場合には、
① 低血糖は避けましょう。
② なるべく良いコントロールにするのが良いです。ただし、無理は禁物です。
③ 他の病気や余命のことも考えて、治療方針を決めましょう。
以上になります。
最後に、HbA1cの数値と平均血糖値の値に乖離が生じるときについて説明します。
HbA1cは、ヘモグロビンと糖が結合したもののため、ヘモグロビンの寿命に大きく影響を受けます。
そのため、赤血球が壊されたり、急激に産生される状態では、HbA1cは低くなります。
赤血球が壊れる疾患(例:溶血性疾患)
新しい赤血球が増える時
(例:貧血から回復した時・輸血時)
エリスロポエチン治療中の腎性貧血
肝硬変 など
また、ヘモグロビンそのものに異常がある場合にも、異常値になります
・異常ヘモグロビン症の一部
このような場合は、ご自分で判断せず、主治医の先生とご相談下さい。
日本では、HbA1cの表記に、2013年4月から、国際標準値であるNGSP値が使われていますが、以前は、日本独自の値(JDS値)を使用していました。
JDS : Japan Diabetes Society
NGSP : National Glycohemoglobin Standardization Program
HbA1cのNGSP値とJDS値の差は、臨床上で使用されるHbA1c 5.0%~10.0%の範囲では下記の通りになります。
JDS値+0.4=NGSP値
過去のHbA1cのデータと比較する際には注意しましょう。
以上が、HbA1cの説明になります。
なかなか、奥が深いものですね。
何か、糖尿病でお困りのことがあれば、当院にご相談下さい。
文責・名古屋市名東区の糖尿病内科 アスクレピオス診療院 服部 泰輔
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