SGLT2阻害薬の解説 - 作用機序、副作用、薬の一覧、心不全・腎保護・体重減少などの多面的効果まで
SGLT2阻害薬の解説 - 作用機序、副作用、薬の一覧、心不全・腎保護・体重減少などの多面的効果まで
公開日: 2019年11月12日
最終更新日: 2022年12月30日
SGLT2阻害薬は、日本では2014年から使われている比較的新しい薬です。
尿中に糖分(グルコース)が漏れる事により、血糖降下作用を発現します。
血糖の改善だけでなく、体重減少、血圧低下、糖尿病性腎症の保護作用、心血管疾患・心不全リスクの低減作用など、さまざまな多面的効果が報告されています。
副作用としては、性器感染・尿路感染が多く、女性では特に注意が必要です。
肥満を伴う糖尿病患者や心血管疾患・糖尿病性腎症をもつ糖尿病患者さんが良い適応です。
目次
SGLT2阻害薬は、腎臓で糖分を再吸収しているSGLT2(sodium glucose cotransporter 2 : ナトリウムとグルコースを運ぶ蛋白)の働きを抑える事で、尿から多量の糖分が漏れるようにする経口血糖降下薬です。
尿から出ていく糖分(グルコース)は、1日60g~100gに及びます。
尿から糖分が多量に漏れると、血糖値は低下します。
SGLT2阻害薬には、血糖値を下げるだけでなく、様々な良い効果がある事が報告されています。
副作用には、尿路感染、脱水、電解質異常、骨折のリスクが高まるなど様々な副作用が報告されています。
尿糖が漏れる事で血糖が下がる薬のため、低血糖はおこしにくい薬です。
SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の患者さんの中でも、肥満の人、心疾患のある人、糖尿病性腎症のある人に、適しています。
SGLT2阻害薬はどうやって効いているのかを説明する前に、腎臓でどうやって尿が作られているかを説明します。
尿の作り方は、次の通りです。
→詳しい尿の作り方は、尿糖 の記事へ
この原尿ですが、健常成人では、1日150Lの血液をろ過して作っています。
この原尿の中には、血液からろ過されたブドウ糖(グルコース)が、1日 160g~180g 含まれています。(1)
原尿中のブドウ糖を、そのまま外に出すともったいないため、腎臓の尿細管という所で、SGLT1、SGLT2という蛋白質を通じて、体内に再吸収されます。
SGLT1とSGLT2は両方とも、糖分の再吸収に関わっており、原尿中のブドウ糖の約9割が、主としてSGLT2により再吸収されます。(1)
SGLT2阻害薬により、SGLT2の働きが阻害されると、原尿中の糖分を再吸収しきれなくなり、多量の糖分が尿中に漏れ出てくるというわけです。
カナグル錠100mg 医薬品インタービューフォームより引用
上図は、SGLT2阻害薬のカナグリフロジン(カナグル)により、腎臓の尿細管で、SGLT2が阻害され、尿中に大量の糖分が漏れる様子を描いたものです。
ところで、SGLT2阻害薬を飲むと、どのくらい尿糖が増えるかご存知でしょうか?
SGLT2阻害薬を飲むと、尿糖の排泄量は、1日 60g~100g 増えます。(2)
この糖分をカロリー換算すると、1日 240kcal~400kcal(グルコース 1g = 4kcal)になります。
これは、角砂糖(1個 3~4g)では、だいたい、20個~30個分に相当します。
結構、多くの糖分が外に出ていきますね。
糖尿病の薬が、血糖を下げる機序には、次のものが多いです。
しかし、SGLT2阻害薬の血糖を下げる機序は、他の薬剤とは異なり、SGLT2阻害薬は、血液中の糖分を体外に出すことで血糖を下げます。
この血糖の下げ方には次のメリットがあります。
それは、血糖値が下がりすぎると、体が血糖を上げようと、肝臓で糖分を多く作るため、血糖値が一定以上に下がりにくいことです。
SGLT2阻害薬は、単剤では、低血糖を起こしにくい薬です。
(ただし、インスリン製剤やインスリン分泌を促す薬と併用する場合には、低血糖になります。)
→ 糖尿病治療薬の種類と作用機序 の記事
→ インスリンと高血糖の関係 の記事
→ 低血糖 の記事
日本では、SGLT2阻害薬は、2014年4月から使用されています。
下記は、2019年11月時点で、日本で保険適応のあるSGLT2阻害薬の一覧になります。
薬価は、通常用量だと、1日あたり約200円です。(薬価は、2019年11月時点)
一月あたり、6000円となり、保険3割負担だと、一月 約1800円になります。
→ 薬価サーチ(外部リンク)
SGLT2阻害薬は、多くのメーカーから発売されています。
しかし、すべての薬剤が、全世界で販売されているわけではなく、海外展開が進んでいない薬は、臨床研究が進みません。
PUBMEDという論文の検索サイトで、臨床試験の論文(clinical trial)が、何本、報告されているのか調べると、次のようになります。(2019年11月時点)
米国で認可されているカナグル、ジャディアンス、フォシーガが圧倒的に多く、臨床のエビデンス(=例:効能効果の報告)が豊富です。
そのため、カナグル、フォシーガ、ジャディアンスを中心に説明します。
SGLT2阻害薬は、尿中に糖分が漏れることで、血糖が下がる薬です。
尿糖はどの程度漏れたり、血糖値は下がるのでしょうか?
下図は、カナグル100mg投与後の1日あたりの尿糖の量の推移を示した図です。
(カナグルの2型糖尿病患者を対象にした第I相反復投与試験より)
カナグル錠100mg 医薬品インタービューフォームより引用
カナグル100mgの投与開始日から、尿糖の量は1日 約90g~100g 増加しています。
カナグルは、半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)が10.2時間と長いため、投与中止した後も、しばらく尿糖の排泄が続いています。
カナグルを投与すると、すべての人で尿糖が100g増えるかというと、そういうわけではありません。
日本人2型糖尿病の人を対象とした他の臨床研究では、カナグル100mgを投与した後の尿糖が増えた量は、平均 45.1g/gCreであったと報告されています。(3)
(尿糖の排泄量は、一日均等ではないため、両者を比較するのは、若干無理がありますが。)
また、ジャディアンスでは、日本人の2型糖尿病患者への常用量の投与により、尿糖が増えた量は、1日 80~90gであったと報告されています。(4)
下の図は、カナグル100mgを投与した際の血糖の日内変動の変化を表しています。
(2型糖尿病患者を対象にした第I相反復投与試験)
カナグル錠100mg 医薬品インタービューフォームより引用
この図からは、カナグル100mgを投与すると、食前・食後の血糖が下がる事が分かります。
平均血糖値については、カナグルを投与する前と比べて、投与1日目では、平均 19mg/dLの低下認め、16日目では、平均 29mg/ dLの低下を認めました。
(プラセボ群では、投与1日目 3mg/dLの低下、投与16日目 11mg/dLの低下を認めています。)
平均血糖値が、20mg/dl 低下すると、HbA1cは 約1% 低下しますので、この結果から推定されるHbA1cの改善効果は、1%弱といったところです。
→ HbA1c の記事
下図は、日本人2型糖尿病患者にジャディアンスを1日 10mg、もしくは、25mgを、28日間、投与した後の日内血糖変動です。
SGLT2阻害薬には、食前・食後の一日にわたり血糖値を下げる作用があることが分かりました。
次に、HbA1cの低下作用を見てみましょう。
日本人の2型糖尿病患者に対して、カナグリフロジン100mgを24週間投与した際には、HbA1cは、平均0.76%の低下を認めています。(プラセボ群は、0.29%の上昇)(5)
日本人の2型糖尿病患者に対して、ジャディアンス10mg、25mgを投与した際には、HbA1cは、肥満の有無(BMI)に関わらず、約0.8%の改善効果を認めています。(6)
縦軸:HbA1c変化(%)
ジャディアンス 左 10mg 右 25mg
BMI:左:やせ 中:普通 右:肥満
Shiba T et al. Diabetes Res Clin Pract. 2017より引用
海外の臨床研究からは、SGLT2阻害薬のHbA1cの平均的な改善効果は、0.69%と報告されています。(7)
→ SGLT2阻害薬とダイエット の記事
SGLT2阻害薬には、血糖を下げる働き以外にも、多様な良い効果があることが報告されています。
SGLT2阻害薬には、体重減少作用があることが報告されています。
日本人2型糖尿病患者を対象に、カナグル100mgを24週間投与した場合には、平均 69.1kgから、3.8kg(約5%)の体重減量を認めました。
(プラセボ群では平均 68.6kgから、0.8kg(約1%)の体重減少を認めました。)
日本人の2型糖尿病患者では、ジャディアンス10mg、もしくは、25mgを投与した際には、肥満度(BMI)に関わらず、約4%の体重減少を認めます。
縦軸:HbA1c変化(%)
ジャディアンス 左 10mg 右 25mg
BMI:左:やせ 中:普通 右:肥満
Shiba T et al. Diabetes Res Clin Pract. 2017より引用
体重が減少した際に気になるのは、体重が減ったのは、筋肉が減ったのか、脂肪が減ったのかです。
ルセフィ(ルセオグリフロジン)を、日本人2型糖尿病患者さんに、52週間にわたり投与して、体重推移や脂肪量などの変化を検討した研究の結果は次のようになりました。(8)
体重は 平均78.6kgから、3.1kg減少しました。
次の図は、体脂肪量と除脂肪体重の時間経過をみたものです。
SGLT2阻害薬を飲むと、血圧低下作用があることが報告されています。
24時間血圧計を用いた研究では、収縮期血圧 3.76 mmHg 拡張期血圧 1.83mmHg 低下したと報告されています。(9)
血圧の低下するメカニズムは完全に解明されていませんが、一つの機序として、ナトリウムの利尿作用によると考えられます。
特定のSGLT2阻害薬には、腎保護作用があることが報告されています。(10)
下図は、2型糖尿病のアジア人の患者にジャディアンスを投与して、経時的に腎機能が悪化するかを見たデータです。
縦軸:腎機能(eGFR)
横軸:経過時間(週)
Kadowaki T. J Diabetes Investig. 2019より引用
ジャディアンスを投与した糖尿病患者では、腎機能(eGFR)は一旦低下するものの、その後の腎機能の悪化が抑えられています。
また、糖尿病性腎症のアルブミン尿の進展抑制にも効果があることが報告されています。
糖尿病性腎臓病をもつ患者さんには、SGLT2阻害薬は良さそうですね。
→ 糖尿病性腎症とは の記事
海外からの報告では、特定のSGLT2阻害薬には心血管イベントのリスクを抑制する効果が報告されています。
心血管疾患のある2型糖尿病患者に対して、ジャディアンスを投与した群では、全死亡、心血管疾患による死亡率が低く、心不全による入院の抑制に効果があったことが報告されています。(11)
SGLT2阻害薬は、腎臓から尿糖をだす薬のため、腎機能(eGFR)が悪くなると、効果は減少しそうです。
実際にはどうなのでしょうか?
HbA1cについては、改善効果は減少することが報告されています。
eGFR(=腎機能、正常は60以上)が、30-59 mL/min/1.73 m2の場合には、HbA1cの改善効果は、0.3%~0.4%に低下します。
腎機能がさらに悪化し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満になると、HbA1cの改善効果は消失します。(12)
HbA1cの改善作用は、腎機能(eGFR)が低下することで減少します。
しかし、カナグルでは、腎機能正常の糖尿病患者さんに認められた降圧作用、体重減少作用、心血管保護作用、心不全の入院抑制、腎保護作用が、腎機能が低下している(eGFR 30 mL/min/1.73m2まで)糖尿病患者さんにも、認められたことが報告されています。(13)
糖尿病性腎症で腎機能が悪い方にも、保険適応がある人には、投与した方が良いのかもしれませんね。
どの薬でも認められるアレルギーや肝障害などを除くと、SGLT2阻害薬は、尿糖が増えて、細菌や真菌の増えやすい環境が整うため、膀胱や性器感染症が増えます。
排尿時の痛みなどを認めたら、主治医と相談しましょう。
尿糖が増えると、尿量が増えるので、頻尿になります。
夜間にトイレに行くことも多くなりますので、転倒リスクの高い高齢者は注意しましょう。
高度の糖質制限をしつつ、SGLT2阻害薬をのむと、糖分が著しく不足し、高度の代謝異常をきたす恐れがあります。
SGLT2阻害薬は、1型糖尿病患者でも安全に使用できる可能性が示唆されていますが、ケトアシドーシスに注意すべきです。(14)(15)
参考文献:(16)(17)(18)
以上が、SGLT2阻害薬のまとめになります。
もし、よければ、他の記事も参照して頂けると幸いです。
→ 「糖尿病内科 in 名古屋」の記事一覧
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔 先生