糖尿病の予防と対策 - 糖尿病になりやすい人・食事・運動・減量から薬物までのまとめ
糖尿病の予防と対策 - 糖尿病になりやすい人・食事・運動・減量から薬物までのまとめ
公開日: 2019年10月16日
最終更新日: 2022年12月30日
糖尿病は、インスリンの作用不足により、血糖値(=血液中の糖分の量)が高くなり、全身の臓器が傷む病気です。
糖尿病には、1型糖尿病、2型糖尿病など様々なタイプがあります。
→ 糖尿病のタイプの解説
日本人の糖尿病の約9割は、2型糖尿病です。
2型糖尿病は、最も一般的なタイプの糖尿病になります。
2型糖尿病は、病気の発症や進行に、生活習慣が大きく影響することから、生活習慣病と呼ばれています。
ただし、生活習慣が乱れていても、全員が糖尿病を発症するわけではなく、世の中には、体質的に、糖尿病になりやすい人、糖尿病になりにくい人がいます。
一般的に、次のような特徴のある人は、糖尿病を発症するリスクが高くなります。
上記の特徴が当てはまらない人も、糖尿病になるリスクが低い(=糖尿病になりづらい)というだけで、将来的に、糖尿病にならないとは言えません。
そのため、糖尿病の予防はしておいた方が無難ですね。
糖尿病の予防対策としては、次の事が効果的です。
御家族の方に糖尿病の人がいる方など、糖尿病についてご心配なら、一度、専門家にご相談下さい。
目次
糖尿病には、1型糖尿病、2型糖尿病、他の疾患に伴って生じる二次性糖尿病などの様々なタイプがあります。(1)
1型糖尿病は、頻度も低く、確立された予防方法はありません。(2)
しかし、最も多い糖尿病である2型糖尿病に関しては、発症を予防することが可能です。
→ 糖尿病の成因分類(1型・2型・妊娠・その他)の記事
糖尿病を発症するリスクが高い方は、下記の方です。
① 2型糖尿病の家族歴がある(=近親者に2型糖尿病の人がいる)(3)
② 肥満者(4)(5)
③ 若年時より体重が増加している人(5kg以上)(6)
④ 境界型糖尿病の人(7)
⑤ 妊娠糖尿病(8)
それぞれについて説明したいと思います。
2型糖尿病の家族歴のある方は、つまり、血のつながりのある人に糖尿病の方がいる人は
顔が似るように病気も似るため、糖尿病の発症のリスクは、糖尿病の近親者がいない人と比べて、高くなります。
→ 糖尿病は遺伝する病気? の記事
肥満の人は、痩せている人よりも糖尿病を発症しやすくなります。
また、若年時より5kg以上の体重増加している方は、糖尿病になりやすくなります。
ただし、2型糖尿病になりやすくはなりますが、必ず発症するわけではないことに注意が必要です。
下の図は、1990年代の臨床研究です。
50代~60代の日本人のどのくらいの方が、2型糖尿病に罹患しているのか(=2型糖尿病の有病率)を示したものです。
引用:(9)
この研究では、糖尿病の有病率は、BMI 22の理想体重では、4%であり、BMI 35以上の高度肥満者でも、8%に過ぎません。
(BMIは、身長と体重から計算する指数で、痩せすぎや太りすぎの指標に用います。)
→ wikipedia ボディマス指数へ
(BMIの計算例:身長 170cmでは、BMI 22 = 体重 64kg、BMI 35 = 体重 101kg になります。)
高度の肥満の人でも、思ったよりも糖尿病の人は少なく、肥満の方が全員、糖尿病を発症しているわけではありません。
みなさんのイメージは、肥満=糖尿病だったのではないでしょうか?
(*糖尿病の最大のリスクは加齢です。そのため、年をとると糖尿病の方は多くなります。
肥満は、高血圧、高脂血症、高尿酸血症、心血管疾患やがんのリスクになったり、膝や腰といった関節に負担がかかります。なるべく痩せましょう。)
→ 尿酸 高血圧 高脂血症 の記事
境界型糖尿病の基準は、
空腹時血糖値が、110mg/dl以上から126mg/dl未満の空腹時の血糖上昇が認められる方(=空腹時血糖異常 IFG)、
経口血糖負荷試験で、負荷2時間後の血糖値が140mg/dl以上200mg/dl未満(=耐糖能障害 IGT) になります。(10)
ほとんどの境界型糖尿病の人は、若い頃は、問題なかったのですが、
年を重ねるにつれて、徐々に膵臓が弱り、インスリンの分泌が低下し、境界型糖尿病になったと考えられます。
→ インスリンの解説 の記事
→ インスリンと高血糖の関係 の記事
次に、境界型糖尿病の人は将来、糖尿病になるのでしょうか?
境界型糖尿病の方が、糖尿病になるかどうかを観察した臨床研究によると、
3~5年間の観察期間のうちに、
約25%が糖尿病に進行、
約50%が異常な血糖状態のまま、
約25%が正常に戻った
という報告があります。
長期間の観察になると、加齢が最大の糖尿病のリスクのため、大多数の人は糖尿病を発症しているようです。(11)
年をとると、体の弱い所から故障してくるため、仕方ないですね。
妊娠糖尿病の方は、将来の糖尿病を発症するリスクが高いため、注意が必要です。
妊娠糖尿病の方が将来どのていど、糖尿病を発症するのでしょうか?
妊娠糖尿病の方が、糖尿病を発症した方の割合は、妊娠・出産後の6週間から28年の期間で2.6%から70%の範囲と報告されています。
色々な研究を集めた結果なので、人種もばらばらです。
ちなみに、日本人のみのデータはありませんでした。
グラフにすると下の図になります。
(12)
糖尿病の発症率には、かなり、ばらつきがあります。
妊娠糖尿病を指摘された方は、糖尿病の予防に取り組み、定期健康診断はしっかり受けた方が良いですね。
→ 尿糖と糖尿病の関係 の記事
→ 妊娠中の尿糖の意味とは の記事
高脂肪食、飽和脂肪酸が豊富な食事により、糖尿病を発症しやすくなることが報告されています。(13)
飽和脂肪酸の多い食品は、牛肉や豚肉の脂肪、バター、チーズがあります。
いわゆる、動物性脂肪です。(14)
また、早食いは体重増加をきたしやすいことが知られています。
ゆっくりよく噛んで食べましょう。
→ 糖尿病食事療法 の記事
→ 糖尿病食事療法 の記事 その2
糖尿病予防を推進する目的は、
① 糖尿病の発症を遅らせる。
② 膵臓のインスリン分泌をしているβ細胞の保護
③ 血管合併症の予防
以上が主な理由です。
糖尿病は高血糖をきたし、様々な合併症をきたす病気です。
糖尿病の罹病期間が長ければ長いほど、合併症をきたすリスクが高くなります。(15)
そのため、糖尿病の発症を遅らせれば遅らせただけ、将来の合併症を防ぐことができます。
→ 糖尿病 の入門記事
→ 糖尿病の三大合併症 の記事
糖尿病の発症前の空腹時高血糖や食後高血糖が存在するだけでも、心血管系合併症のリスクになりうる可能性が示唆されています。(16)
肥満の方では、インスリンの効きが悪くなっています。(17)
その分、膵臓からインスリンを多く分泌する必要があるため、膵臓のβ細胞には負担ががかかります。
例えるなら、フルパワーで使い続けると壊れやすいことに似ています。
糖尿病は生活習慣病と呼ばれるように、生活習慣、つまり、ライフスタイルが発症と進行に影響します。(18)
日本人の生活は、食生活の欧米化ともに、脂質摂取量が多くなりました。
(日本人1人1日あたりの脂肪摂取量は、1952年は20g, 1995年 60g, 2017年 60g)(19)(20)
また、科学技術の進歩により、昔の人に比べて、運動量は減少しています。
結果として、肥満の人も増えています。
食事で重要なのは、特定の栄養素にこだわるのではなく、バランスの良い食生活をすることです。
糖尿病のリスクになりうる脂肪(特に飽和脂肪酸)の取り過ぎを避けます。(21)
魚介類、植物油に含まれる不飽和脂肪酸には、糖尿病の発症予防には良い可能性があります。(22)
加えて、食物繊維の多い食事は、食後血糖の上昇をゆっくりにすることで、糖尿病の発症予防に効果的です。
(23)
糖尿病の予防には、できる限り、1日30〜60分の中強度の有酸素運動がおすすめです。
有酸素運動とレジスタンス運動の両者が糖尿病の発症予防に効果があることが知られています。(24)
運動することで、
① インスリンの効きがよくなる
② 体重が減る
③ 血糖値が下がる
などの有益な効果が得られます。(25)
身体活動と2型糖尿病の臨床研究では、運動しない人と比較して、150分/週の中等度の運動で糖尿病の発症リスクが、低下しました。(26)
また、ウォーキングは運動時間を延ばすと、さらに糖尿病の発症リスクを低減できます。(27)
体重減量をすることで糖尿病の発症リスクを下げることが可能です。(30)
インスリンに対する感受性を高め、血糖値を正常範囲に保つのに役立ちます。
高度肥満者の場合には、胃の手術療法による減量も選択肢の一つです。(31)
喫煙が2型糖尿病の発症リスクを高める事が報告されています。(32)
1日約20本喫煙すると、糖尿病発症のリスクは、大体、1.3倍~2倍になります。
喫煙者が禁煙すると、体重増加を認めることがよくありますので、体重増加には注意が必要です。
日本人で糖尿病の発症を予防する薬としては、αグルコシダーゼ阻害薬のベイスンが知られています。(30)
αグルコシダーゼ阻害薬は糖分の吸収をゆっくりにする薬です。
日本人は、インスリン分泌不全の糖尿病の方が多いので、糖分の吸収をゆっくりにすることで膵臓への過剰負荷を避ける事ができるのでしょう。
ただし、薬剤費がかかるため、食事の食べ方を工夫するなどの対応した方が良さそうです。
→ 糖尿病の食事療法 の記事
→ 糖尿病の食事療法 の記事 その2
糖尿病治療薬のメトホルミン、ピオグリタゾン、リラグルチドにも予防効果が実証されています。(33)(34)
日本では保険適応はありません。
また、高血圧治療薬のACE阻害薬とARBには糖尿病の発症予防効果が報告されています。(35)
以上です。
→ メトグルコ(メトホルミン) の記事
2型糖尿病は、生活習慣病の一つであり、その発症には、食生活の欧米化・運動不足などの生活習慣が大きく関わっています。
糖尿病の発症を遅らせれば遅らせただけ、糖尿病の合併症を抑制したり、心血管疾患のリスクが低減できます。
糖尿病予防のためには、生活習慣の改善(運動、食事、禁煙)が必要です。
バランスの良い食生活を心がけ、若い頃から体重が増えた方、肥満の方は減量しましょう。
タバコを吸っている方は禁煙しましょう。
参考記事
→ 糖尿病の診断基準 - 糖尿病の診断基準(空腹時血糖値・フローチャート)と背景を含めた解説
→ 隠れ糖尿病のセルフチェック - 予防・早期発見に必要な検査(血糖値・尿)などの項目を含めた解説
→ 「糖尿病内科 in 名古屋」の記事一覧
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文責・名古屋市名東区 糖尿病内科 アスクレピオス診療院 糖尿病専門医 服部 泰輔